奥はタモリミカ、左は大山エンリコイサムの作品の一部。手前は千円札裁判に関連する赤瀬川原平の作品群

 日本の戦後美術史の一端を見せる展覧会が東京・表参道のGYRE GALLERY(0570・05・6990)で開かれている。25日まで。

 1930年代生まれで戦争の記憶を持つ作家、戦中に生まれた作家、70年代以降に生まれた現代作家ら計15組を選出。キュレーターの飯田高誉は「作品のダイアローグ(対話)を通し、時代は断絶しているのではなく、つながっていることが感じられるはず」と話す。

 「千円札裁判」で知られる赤瀬川原平(37~2014年)による「大日本零円札」の隣には青山悟(1973年生まれ)が刺しゅうによって制作した一万円札「Just a piece of fabric」が置かれた。青山によると、刺しゅうで1枚の一万円札を作るには東京都の最低賃金に換算して約6万円かかるという。貨幣が宿す価値や、労働への対価をめぐる問いかけが時代に関係なく迫ってくる。

青山悟による「Just a piece of fabric」

 3面の壁にかけられた中西夏之(35~2016年)、大山エンリコイサム(1983年生まれ)、タモリミカ(同84年)による平面の大作は、いずれも内省的で繊細な筆致が呼応し合う。加茂昂(同82年)は、広島で被爆した市民が残した絵を取材し、模写したものを元に「追体験の風景#1」を表した。「証言集を読みながら模写することは自分にとって戦争の追体験だった」と振り返る。その隣には「ルポルタージュ絵画運動」に触発された未知の画家、北村勲(42~2008年)の油彩画が並べられた。

加茂昂による「追体験の風景#1」

 「ヴォイド」は空っぽ、空洞などを意味する。飯田はこの言葉で空虚で、中心を持たない日本の戦後美術史の一面を表した。空虚だからこそ実現した、時代を超えた響き合いなのかもしれない。

2022年9月21日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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