京都精華大と韓国・ソウル市立大の教員や生徒らが参加する交流展「828.45K−Come&Go」が、京都精華大のギャラリー「Terra-S」(京都市左京区)で開かれている。両校間の距離を示すタイトルのもと、30人のアーティストが現代社会を映す多様な表現を展開している。
「有機的生物1(母性)」と名付けられた陶の作品。サボテンがモチーフだというが、白い表面にあるのはトゲではなく、いくつもの穴だ。作者は韓国からの留学生で、京都精華大3年のホン・ウォンヒョンさん。群生し、トゲで自分自身を守るサボテンが人間に似ていると感じ、版画や陶芸作品を制作した。
トゲのない表面と対照的に、生々しくも美しい側面を持つ陶の作品は、社会に犠牲を強いられる中でトゲをなくしてしまった女性たちをイメージし、その両面性を表現したという。女性の生きづらさは、いまだ固定化されたジェンダー観が残る両国が共通して抱える社会問題だ。
京都精華大出身の肥後亮祐さんは、辞書や地図に掲載されている意味をなさない造語や実在しない場所をテーマに、人や社会が作る「虚構」について考える作品を制作しているアーティスト。本展では、東シナ海にある暗礁を題材に選んだ。
暗礁はサンフランシスコ講和条約締結の過程で、韓国が「波浪(パラン)島(ド)」の名で領有を主張したが、当時は実在しないとされた。中国の伝説の怪獣「夔(き)」がいたともされ、肥後さんは波浪島について調べる中で、一本足の「夔」の木像が「夔神(きのかみ)」として山梨県の山梨岡神社にまつられていることを知った。現在は離於島(イオド)(中国名・蘇岩礁)として中韓が管轄権を争う暗礁だが、政治的争いとは別の次元で、〝幻の島〟を人々がどう表象してきたのかを文献や映像のインスタレーションで表現した。
京都精華大教授の吉野央子(おうじ)さんが、交流のあるソウル市立大教授のソン・ジョンジュンさんと企画し、3月にはソウル展が開かれた。京都展では「英語を挟まないことにこだわり」(吉野さん)、作品のキャプションを日韓2カ国語の表記に。その時々の政治情勢に翻弄(ほんろう)され「近くて遠い国」と言われることも多いが、学生らと接する中で両国間に壁を感じることはないという。自身は韓国の伝統的な民画でおなじみのモチーフ、トラとカササギを木彫で表現し、「旧知の関係」と名付けた。
今村源さん、西山美なコさんら京都精華大の非常勤講師を務める現代アーティストも出品。7月上旬に行われた、韓国出身のアーティスト、イ・ランさんの新曲を日本語訳するライブイベントの模様も映像で見ることができる。8月4日まで。
2024年7月22日 毎日新聞・東京夕刊 掲載