法然上人坐像(中央)が展示されている会場。坐像の展示は5月12日まで=東京都台東区の東京国立博物館で4月15日、棚部秀行撮影

 浄土宗開宗850年 歴史と美術通覧

 法然(1133~1212年)が浄土宗を開いて今年で850年になるのを記念し、特別展「法然と極楽浄土」が東京・上野の東京国立博物館で開催されている。浄土宗の歴史と美術を、鎌倉時代から江戸時代まで通覧する初めての展覧会。6月9日まで。

 法然は比叡山延暦寺で修学。平安末期、飢饉(ききん)や天災、戦乱が絶えない混乱の時代、「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)」と唱えれば誰でも極楽浄土に行くことができると説き、浄土宗を開いた。釈迦(しゃか)の教えが廃れるという「末法」の世に、全ての人が救われると説く「専修念仏(せんじゅねんぶつ)」の教えは幅広い階層から支持を得た。

 展示の第1章は「法然とその時代」。坐像(ざぞう)や肖像画、色鮮やかな絵伝、一部真筆とされる「選択(せんちゃく)本願念仏集」などの史料から法然の人物や教え、生涯をたどる。法然が門弟に自戒を促した「七箇条制誡(しちかじょうせいかい)」には、本文のあとに署名が並び、親鸞(=綽空(しゃくくう))の名も確認できる。第2章「阿弥陀仏の世界」では、阿弥陀仏のさまざまな造形を紹介し、庶民の間での信仰の高まりを伝える。3年間の修理を経て、初公開となる国宝「阿弥陀二十五菩薩来迎図(ぼさつらいごうず)(早来迎(はやらいごう))」は鎌倉時代を代表する仏画。正方形の対角線構図の左上には白雲に乗って飛来する阿弥陀如来と菩薩の姿、右下に往生者が描かれ、速度を感じることができる。

国宝「阿弥陀二十五菩薩来迎図(早来迎)」鎌倉時代・14世紀、京都・知恩院蔵、5月12日まで展示

 第3章「法然の弟子たちと法脈」は、法然没後、教えをつなごうとした弟子たちの奮闘。九州や鎌倉をはじめ全国的な活動を紹介する。奈良県・當麻(たいま)寺の本尊で、極楽浄土の様子を描いた約4㍍四方の国宝「綴織(つづれおり)當麻曼陀羅(まんだら)」が圧巻(8日からは、最も精密な写しとして知られる原寸大の「貞享本」に展示替え)。

 第4章「江戸時代の浄土宗」では、徳川家康をはじめとする将軍家や諸大名の帰依、外護(げご)により、浄土宗が大きな発展を遂げた姿を描く。展示最終盤では、釈迦入滅の場面を表現した香川県・法然寺の「仏涅槃(ねはん)群像」の一部を再現。涅槃仏とそれを取り囲んで嘆く羅漢、動物など全体のうち26体を展示する。厳粛かつ迫力の空間が広がり、こちらは写真撮影が可能。

 会期中、大幅な展示替えを予定。10~12月に京都、来年10、11月には福岡を巡回する。

2024年5月8日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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