土生滝町の地車に彫られた「夏之陣 真田幸村」の彫刻=『岸和田だんじり図典』から

 大阪・岸和田型の地車(だんじり)の構造や歴史などを、豊富な図版で説き明かした『岸和田だんじり図典―祭を支える心と技』(だんじり彫刻研究会)が刊行された。民俗学者で篠笛(しのぶえ)奏者の森田玲(あきら)さんが編集・執筆を手掛け、写真家の平田雅路さんが、地車の全容から細部に至るまでを撮影。祭りでの勇壮なイメージとはひと味違う、壮麗な彫刻に彩られた地車の魅力を浮かび上がらせた。

 岸和田型の地車は江戸時代中期に岸和田の城下町で成立し、周辺地区に広がっていったとされる。森田さんは岸和田を含む泉州地区の出身で、京都市在住。幼い頃から地車は身近な存在だったという。篠笛奏者として活動する傍ら、地車の研究に取り組み、『日本だんじり文化論』(創元社)などを著している。

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 本書は、大阪府岸和田市土生滝(はぶたき)町の地車の新調に合わせ、「一つの町の記録にとどめず、地車文化を支える人々の思いと技術を伝えよう」と企画。2022年に完成した同町の地車について、施主である自治会と、組み立てを担った植山工務店、彫刻を手がけた賢申(けんしん)堂の三つの視点で、約7年にわたる計画・製作過程を記録した。

 地車を構成する部材は、千数百に上る。神話や軍記物語などを題材に、躍動感あふれる彫刻が各部に施されるのも特徴だ。本書ではそんな彫刻の写真に加えて、部位・部材の詳細な解説も収録。江戸時代に淀川を往来した川御座船(かわござぶね)をモデルに生まれ、住宅建築や社寺建築などの要素を併せ持つ地車の構造が分かる一冊となっている。

 刊行を記念したトークイベントが4月に岸和田市内で開かれ、森田さんと平田さん、彫刻師の河合賢申さんが、地車の魅力を語り合った。

『岸和田だんじり図典』編著者の森田玲さん(中央)と写真家の平田雅路さん(右)、彫刻師の河合賢申さん=大阪府岸和田市で、関雄輔撮影

 平田さんは、精緻な彫刻をいかに余すところなく写真に収めるか苦労したと振り返り、「一度だけでは気づかない部分もあるだろうから、何回も見返してほしい」と本書をPR。河合さんは「地車の各部と日本建築の比較など、本職ですら知らなかったことが書かれている」と述べた。

 森田さんは「地車には街を勇壮に走るイメージが強いかもしれないが、彫刻の美しさなど、まだ知られていない魅力がたくさんある。(本書が)地車に限らず、地域の伝統文化を見直すきっかけになれば」と語った。

 A4判フルカラー164㌻。篠笛文化研究社(075・708・2614)。

2024年5月1日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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