心浮き立つような色彩が並ぶ展示=東京・南青山で

 昨年12月に死去したイラストレーター、舟橋全二さんの個展「舟橋全二 版画展」が、東京・南青山のアートギャラリー「スペースユイ」(03・3479・5889)で開催されている。ギャラリーにはシルクスクリーンなどの版画約20点や、本展のために作ったグッズが並び、舟橋さんらしい明るい色彩に満ちている。

 舟橋さんは本紙書評欄「今週の本棚」のコーナー「好きなもの」「昨日読んだ文庫」の挿絵を12年間担当した。切り絵の手法を用いた、しゃれた色合いとシンプルな形が特徴。挿絵やポスター、公共の立体作品など多岐にわたって活躍。ロシア・エルミタージュ美術館にも作品が所蔵されているという。

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 本展では、2022年に制作した版画と、過去作の切り絵から選んで新たに版画として制作した作品からなる。「林檎(りんご)」は、鮮やかな赤と緑が反転するように色面をつくる大小2個のリンゴ、そしてその影が軽快なリズムを刻んでいる。空を舞う鳥や、果物や野菜、そして花といったモチーフもあり、雑誌の挿絵やポスターなどのために制作されたものも多い。

林檎(りんご)

 また、西武百貨店の包装紙や、無印良品のロゴを手がけたグラフィックデザイナー、故田中一光さんによる文章「舟橋全二のみずみずしさ」も紹介。舟橋さんが約10年間の米国・カナダ生活の後、1980年に帰国したころに贈った言葉だ。「色彩がますます明快になり、コラージュというある種の偶然性の中に、彼独特の体臭がにじんでいるのに驚かされた。(中略)近年の日本のグラフィック・デザインに待たれていた、今一番欲しい原色の一つがすぐそばで輝いていてくれるように思える」

 このほかTシャツやキーホルダーといったグッズもある。Tシャツには妻のカトリーヌさんが舟橋さんの作品から選んだ、ピンクの花々があしらわれている。

 ギャラリーの高橋知江さんによると、3月に立体作品による個展を計画していたが、逝去のため版画展とした。舟橋さんは20年以上「イラストレーション青山塾」(東京)で講師を務め、プロのイラストレーターを多く育ててきた。

 高橋さんも教えを受けた一人。高橋さんは「ネガティブなことを言わず、生徒のよいところを伸ばしてくれる方だった。どんな作品にもいいところが絶対あると、誰にも公平に声をかけていた。みんな先生のことが大好きでした」と振り返った。30日まで。

2024年3月27日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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