新作について語る手塚愛子さん(中央)。後ろに掛かるのは「閉じたり開いたり そして勇気について(拗れ)」。左側が織物の表で、中央で縦糸をねじり、右側には反転した裏側を見せている=京都市東山区で、山田夢留撮影

 織物を解体し再構築するという独自の手法を用いる美術家・手塚愛子さんの個展が、京都市内で開かれている。長崎・出島を訪れ、さまざまな「開く」と「閉じる」に思いを巡らせ生まれたという新作「閉じたり開いたり そして勇気について」シリーズを展示。京都・西陣の老舗織物会社と協働制作した織物をほどいて再構築したインスタレーションは、美しいだけでなく、複層的に込められた意味を読み解く面白さにも満ちている。

手塚愛子「閉じたり開いたり そして勇気について」©KYOTO INTERCHANGE 撮影 守屋友樹

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 手塚さんは東京都出身。大学で油絵学科に在籍していた頃から織物に着目し、既製の織物を解体し再構築する作品を制作。2005年に京都市立芸術大大学院博士課程を修了後、10年に渡欧。現在はベルリンと東京を拠点に活動し、日欧の工房と協働して制作した織物や歴史的な織物を用いた作品を手がけている。

 新作は約1年前に出島を訪れ、鎖国と開国や、開国後から現在に至るまでの日本を考える中で生まれたという。西陣の老舗「加地織物」の職人による織物は深いブルー系のベースに、江戸時代に描かれた地図や明治元年の和英辞書の文字といった歴史的なものから、現代のメールの絵文字まで、さまざまなモチーフが複層的にちりばめられている。織物の一部の横糸を抜き、色とりどりの縦糸をねじって織物の裏側を見せたり、編んだ縦糸を垂らしたりしたインスタレーションは、絹特有の美しさをたたえる。

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 2月3日にはトークイベントがあり、手塚さんが新作に込めた意味や近年の活動について語った。出島で鎖国時代の資料を見た時、「欧州に移り住んでから14年の間に感じた、いろいろなレイヤーの葛藤とシンクロした」といい、その翌月に再訪。さらにシーボルトが日本地図を持ち出そうとして国外追放された足跡をたどってオランダも訪問し、調査を重ねたという。

 現代のアイコンとしては「軽くてポップだが、実は送る方も受け取る方も重い」と感じていた絵文字を配置。「閉じる、開くは、個人レベルでも毎日起こることで、どちらにも勇気が要る。どこまで開き、どこまで閉じるのかを、個人的な問題としても、歴史的な問題としても取り上げたかった」と語った。

 学生の頃から「なぜこの表面が今、私たちの目の前にあるのかに興味があり、それが美しいかどうかには興味がなかった」という。織り上げたものをほどいて制作するのは、「できあがったものが崩壊する瞬間に美があると感じる。それを映像ではなく物体として、止まりながら動いている表現にしたい」から。近年は作品の再展示を求められることが多く、それによって「ライブ感が失われている気がする」とも明かし、「二度と作れませんという作品があってもいい」と語った。

 値段だけでは測れない作品の価値やアートの公共性について考えを深めようと展覧会を企画・運営する「KYOTO INTERCHANGE」の主催。京都市東山区の半兵衛麩(ふ)五条ビル2階で3月17日まで。

2024年2月14日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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