論集『この国(近代日本)の芸術:<日本美術史>を脱帝国主義化する』(月曜社)=写真=が、彫刻家・評論家の小田原のどかさん、文化研究者・アーティストである山本浩貴さんの編著で刊行された。今を作った歴史を見つめ直し、多義的な視点から芸術に揺さぶりをかける著作だ。
22人の研究者、アーティスト、キュレーターが参加し、論考やインタビューなどを収録する。トピックは、アイヌ・沖縄の文化・美術から考える日本美術史の脱中心化、工芸、戦中の女性美術家、天皇制を巡る表象、障害がある人の芸術活動、アートと社会運動――など多岐にわたる。近代化と共に作られた日本美術史が周縁化し、排除したものを取り上げ、自明とされる美術史を読み直そうとする。
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企画の発端には、アーティスト・飯山由貴さんの映像作品が展覧会で展示や上映が認められなかった問題がある。背景には、主催者の国際交流基金や東京都が、関東大震災の朝鮮人虐殺に触れた箇所を疑問視した経緯があり、小田原さんは「検閲行為がいっそう深刻になっている」と話す。本書は多彩な論点を含んでおり、「本を作れば、同時代の人たちがアクセスしやすい参照項となるし、未来に現状を伝えることができる」。山本さんも英国で学んだ経験から日本美術史の読み直しが必要だと考えていた。「帝国主義や植民地主義の歴史をタブー化するのではなく、自由に発表し議論できるような美術界の状況を作りたかった」
本書はさまざまな実践の延長上にあると言える。オンライン講座と連動して本が作られ、検閲・炎上対策マニュアルも収録する。アーティストが、加納実紀代資料室「サゴリ」(広島市)のジェンダーや植民地主義関連資料を活用する際に、本の売り上げの一部からリサーチアワード(賞)を贈る計画もある。
参加者は、非当事者であっても当事者性を引き受けながら研究・活動している人が多い。「芸術の社会的可能性を探る」(「反帝国の美術家・四國五郎」)一冊だ。
2024年1月17日 毎日新聞・東京夕刊 掲載