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毎日ファッション大賞表彰式 日々葛藤も前向きに 黒河内真衣子さんらあいさつ

文:平林由梨(毎日新聞記者)、松原由佳(毎日新聞記者)

ファッション

 今年で41回を迎えた「毎日ファッション大賞」の表彰式が10月16日、東京都渋谷区のEBiS303で開かれ、大賞を受賞したMame Kurogouchiデザイナーの黒河内真衣子さんや、新人賞・資生堂奨励賞を受賞したSynflux代表取締役CEO(最高経営責任者)の川崎和也さんらが受賞を喜んだ。受賞者らのスピーチには、例年になく、環境への配慮やものづくり技術の伝承といったファッション産業の持続可能性に対する高い関心が表れた。

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表彰式であいさつするMame Kurogouchiデザイナーの黒河内真衣子さん=東京都渋谷区で10月16日、藤井達也撮影
表彰式であいさつするMame Kurogouchiデザイナーの黒河内真衣子さん=東京都渋谷区で10月16日、藤井達也撮影

 ブランド創立13年で大賞を受賞した黒河内さんは、日本各地の生地生産者や職人らと丁寧なコミュニケーションを取りながら服作りをしてきたことで知られる。黒の細身のスーツで登壇した黒河内さんは、スタッフやこうした生産者に感謝と尊敬の念を表明。「激動する日常のなかでもの作りの難しさにも直面する。多くの課題があり、日々葛藤もあるが、私たちらしいあり方でこれからも誰かにとってのすてきな一着を作っていきたい」と前を見据えた。

表彰式であいさつするMame Kurogouchiデザイナーの黒河内真衣子さん=東京都渋谷区で10月16日、藤井達也撮影
トロフィーを受け取るSynfluxの川崎和也CEO(右)=東京都渋谷区で10月16日、藤井達也撮影

 洋服を作る際に出るゴミを減らすシステムをAIなどを駆使して考案する川崎さんは「デジタルテクノロジーを表層的なことだけでなく、ファッション産業の持続可能性、循環、再生のために使っていく。少しでも共感してくれたのならぜひ、われわれと一緒に行動を共にしましょう」と呼びかけた。

 川崎さんは式の後半、A−POC ABLE ISSEY MIYAKEデザイナーの宮前義之さんを招いて「未来のファッションデザイナー」をテーマにトークセッションも行った。宮前さんは「川崎さんは、色や形にとらわれがちなファッションを仕組み自体から変えようとしている。こうした新しい仕事に特別な賞が与えられたというのは時代の変わり目だと感じる」と評価した。

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 長年ファッション界の発展に寄与した「縁の下の力持ち」に贈られる鯨岡阿美子賞は、時代をけん引するセレクトショップ、ユナイテッドアローズの上級顧問、栗野宏文さんが受賞した。「今でもファッションの最前線にいるのが一番楽しい。その楽しさをこれからも伝えていきたい」と意気込みを語った。

 自身のブランドでアップサイクルしたポーチなどを販売し、等身大でSDGs(持続可能な開発目標)に取り組んでいるとして話題賞を受賞した俳優・アーティストののんさんは「強い意志を示したい時、ファッションの力を借りてきた。これからもファッションの喜びを体現できるように精進します」。また、時計界のアカデミー賞と言われる「ジュネーブ時計グランプリ」で2年連続受賞を重ねて同じく話題賞を受けたのは「グランドセイコー」。セイコーウオッチの石黒実副社長は「日本の美意識を大切にしながら、賞を励みに、世界に通用するラグジュアリーブランドとして価値を高めていきたい」と意欲を示した。

 創立100年を迎え、特別賞が贈られた文化学園の清木孝悦理事長は「予測困難な時代を切りひらく思考力、想像力のある若者の育成につとめている。学園の未来は産業、経済の状況、18歳人口の動向を考えると平たんな道ではないが、一人一人の学生を大切にし、それぞれの学びの希望に応え、ファッション教育を継続していくことで人々の豊かな生活や社会の発展に寄与していく」と決意を新たにしていた。

2023年11月2日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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