「アートと思想の最前線」をテーマに語り合う斎藤幸平さん(左)と卯城竜太さん

 ともに「資本主義のその先」を見据えるトップランナーだろう。消費社会や震災、原爆といった課題をテーマに、矛盾をあぶり出してきたアーティスト・コレクティブ「Chim↑Pom from Smappa!Group(以下、チンポム)」の卯城竜太さん(45)とマルクス研究者で東京大准教授の斎藤幸平さん(36)。アートと思想、活動するフィールドは違えど、「ポスト資本主義」のあり方を描いてきた2人の対談が実現した。題して「アートと思想の最前線」。アート・アクティビズム(行動主義)や、コミュニティーのあり方など話題は多岐にわたった。

 「左翼的な家庭で育ち、『資本論』は身近だったが、それを読み解いた斎藤さんの本が今、ベストセラーになり、社会現象になっている。面白い時代になってきた」。卯城さんがこう切り出すと、「チンポムは人新世のアーティスト。そしてパンク」と斎藤さん。

 対談は、卯城さんの新刊『活動芸術論』(イースト・プレス)と斎藤さんの『ゼロからの「資本論」』(NHK出版)の刊行を記念し1日、東京都中央区の誠品生活日本橋で開かれた。

■  ■

 600㌻近い大著で卯城さんは、チンポムがこれまで実現してきた作品やプロジェクトを詳述するとともに、アーティストがこれまで行ってきたラジカルな芸術活動を、日常のなかで誰もが携わることができるものとして捉え直し、アップデートを試みた。

 対談では昨年、英国の美術館でゴッホの「ひまわり」にトマトスープをかけた環境活動家2人の行動に触れ、卯城さんは「美術館は作品保全に大金を使うのに環境保全には1円も使わないという美術界の不都合を可視化した。高い批評性を感じた」と語った。斎藤さんは「こうした政治的なアクティビズムもインパクトを持つが、アート・アクティビズムこそ、既存の正しさの線引きを揺るがせ、善や美といった規範をずらし、権力関係を常に問い直してきた」と応じた。

 こうした「問い直し」の先に2人が思い描くのが「コミュニティーを基礎にした変革」だった。卯城さんは「メンバー6人のチンポムを18年続けるだけでも大変。労働者が樹立したパリ・コミューンの失敗もあるし、ヒッピーの共同体も実験済み。ポスト資本主義的形態が生まれたとして、コミュニティーはどのように維持できるか」と問題提起した。そのうえで「人間に限定するのではなく、動植物や菌といった人間以外の存在と絡まり合って世界は成り立つとするマルチスピーシーズ(多種)民族誌の考え方に学びたい」と語る。

 それに対し、斎藤さんは「わたしはある種の人間中心主義を最初の前提としてきっぱり認めたい」と強調。「気候変動に代表される人新世の状況は人類が引き起こした。多種との絡み合いにすべてを解消してしまうのは、人間の責任から目を背けることにならないか。政治性が失われないか」と問いかけた。

■  ■

 ドイツで昨年開かれた現代美術の祭典「ドクメンタ15」では、芸術監督として迎えられたインドネシアのアート・コレクティブ、ルアンルパが「芸術をつくるのではなく、友達をつくろう」と呼びかけた。世界各地のアーティストら1500人以上が約100日間にわたって対話や議論を重ね、新しい場所、ネットワーク作りに取り組んだ。卯城さんは「ばらばらな人たちがコミュニティーをどう作り上げるのか。運営の思想が今後のアートの最前線になる」と締めくくった。

2023年6月14日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

シェアする