「KUMASHIMA」誕生について語り合う右から隈研吾さん、築城則子さん、吉田龍太郎さん

 建築家、隈研吾さん(1954年生まれ)と、江戸時代に豊前小倉藩(現在の北九州市)で生産が始まった小倉織を復元、再生した染織家、築城則子さん(同52年)が協働した小倉織によるテキスタイル「KUMASHIMA」がこのほど完成した。これまで建築やインテリア、家具などで用いるのは難しいとされてきた日本の伝統織物に新たな活路が開かれそうだ。

 小倉織は、たて糸がよこ糸の2~3倍使われることから生じるしま模様が特徴の木綿布。厚くて丈夫なことから、かつては武士のはかまや帯に使われ、明治期には学生服として全国で人気を呼んだという。しかし、他県産に押されるなどして昭和初期に生産は途絶えていた。

 約40年前に古美術店で見つけた小倉織の小さな端切れに魅せられたのが同市出身の築城さんだった。織り方を解析するなどして84年に復元。2007年には機械による小倉織の生産にも成功した。現在は、手織りの作家活動と共に機械織ブランド「小倉縞縞(しましま)」のデザイン監修も行う。

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 「KUMASHIMA」のデザインの軸は「植物の力」だ。同市にある築城さんの工房を訪れた隈さんが、木綿という素材、糸を染める植物の生命力に圧倒され、コンセプトに掲げた。幅140㌢の布に同じしまをリピートしないデザインを採用。葉脈のように浮かぶラインはシャープだが、草木染の発色をモチーフにしたという深みのある色彩はおおらかでもある。

 5月18日には、東京・南青山にある「KUMASHIMA」を用いた家具を製作する「Time & Style」のショールームで完成発表会が開かれ、隈さんと築城さんが公開対談を行った。協働のきっかけは、3年前に隈さんが手がけた旅館再生プロジェクトだったといい、そこで用いた「小倉縞縞」のテキスタイルに隈さんは「衝撃を受けた」と振り返る。一見、無地のように見えるシンプルな黒い布に無数の筋が表れていたといい、「暗やみの中でかろうじて何か手がかりをつかむ、そんな感動が布のなかに表現されていた。すごくかっこいいと感じた」と語る。

 デザインから生産まで、一貫して小倉織発祥の地、北九州市で行う。築城さんは「自分たちが作りたいものを他に外注するのではなく、身の回りで生み出す土台ができた。だからこそ、ここまでやってこられた。地方の伝統工芸を新しい形で世界に発信できる機会に感謝している」と喜んだ。

 また、手織りでしか実現できないとされた複雑で微妙なしまを、最先端の整経機によって整え、量産を実現させたことについて、「Time & Style」の吉田龍太郎代表は「普段から植物で糸を染め、手織りする、手仕事を大切にしてきた築城さんだからこそ、正しく機械を使って良いものが生み出せる」と解説した。

 対談で二人は、日本の風土に根ざした建築と布の共通性にも触れた。れんがや石を積む西洋の建築に対し、隈さんは「日本の木造建築は柱とはりが、たて糸とよこ糸のようにして織り上がっていく」と指摘。築城さんは「たて糸とよこ糸の交差は極小の立体を生む。だからこそ、そこに風が通る」と応じた。

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 隈さんがデザインし、「KUMASHIMA」を張ったソファやベッド、カーテンなどは東京・南青山の「Time & Style Atmosphere」(03・5464・3205)で20日まで展示している。

2023年6月1日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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