会場の様子。中央は「モールの吹き抜けを鋳型にとらえ、そこにトロ箱を流し込んだ形」という造形作家、座二郎さんの作品=東京都中央区の日本橋高島屋SCの高島屋史料館TOKYOで

 老舗百貨店、日本橋高島屋SC(東京都中央区)の「高島屋史料館TOKYO」で展覧会「モールの想像力 ショッピングモールはユートピアだ」が開かれている。会場には発泡スチロールのトロ箱(鮮魚の輸送などに使う箱)が積み上がり、いくつもの寄せ植えが置かれ、時々ヒップホップがかかる。婦人服売り場の一角に異空間が出現した。8月27日まで。

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大山顕さん

 同館の海老名熱実学芸員が「百貨店とショッピングモール(以下、モール)を相対立するものとして捉えるのではなく、商業というものが文化装置として私たちの生活にどのように影響し、貢献してきたか、その軌跡を捉え直したい」と企画した。建築から百貨店の系譜を見返した前回の「百貨店展―夢と憧れの建築史」(2022年9月~23年2月)に続く、「商い」と「文化」の相互作用を掘り下げる試みだ。監修は、モールについて批評家、東浩紀さんとの共著がある写真家、大山顕さん(50)が担当した。

 モールは、地域の商店街に打撃を与え、均質化する社会の象徴として批判の対象になってきた。しかし、大山さんは「今やモールは重要な公共空間であり、文化を育む土壌でもある。私たちの生活と不可分な存在です」と指摘する。

 会場に流れていたイシグロキョウヘイ監督の長編アニメ「サイダーのように言葉が湧き上がる」(20年)は、群馬県の「イオンモール高崎」に取材した作品。大山さんは「現代のモールの実相をシニカルになることなく描いたまれな作品」と評価する。そこではモールはもう一つの「街」として機能していた。ティーンエージャーが集い、併設されたデイサービスに高齢者が通う。彼らはバリアフリーの、空調の利いたモール内を散歩する。モール内の商品に季節感を見いだし、吟行もする。買い物するだけの場ではないことが伝わってくる。実際に、図書館や市役所の出先機関を併設するモールも少なくない。

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 生活のすぐ隣に存在しているからこそモールを創造の源泉にした作品や活動は多彩だ。展示では、映画「ゾンビ」(1978年)から、全国のモールを巡って歌を披露する半崎美子さんの活動、人気アーティスト、ビリー・アイリッシュさんのミュージックビデオに至るまでを、巻物のように見せる。そのなかでもヒップホップグループ「Mall Boyz」の「モールはフッド(ふるさと)」という言葉は、今やモールが多くの若者の原体験に刻まれていることを鮮やかに示した。

 大山さん自身も世界中をめぐって撮影したモールの写真を出品。多くが「ストリート」と「吹き抜け」からなる構造を可視化した。「百貨店は都市のなかにあり、モールはモールのなかに都市を造った。百貨店やモールについて考えるとき、それは都市のあり方を考えることでもある」と語る。売り買いの形態はめまぐるしく変化し、自宅にいながら何でも手に入る時代になった。「ショッピングモールはユートピアだ」と仮定することで、豊かさの行方を想像させる、そんな企画だ。

2023年4月26日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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