記念展には歴代の受賞作がずらりと並んだ=神戸市灘区で
記念展には歴代の受賞作がずらりと並んだ=神戸市灘区で

 立体や映像、インスタレーションなど美術が多様な方向に向かっていた1994年、「平面作品の復権」を掲げてスタートした「VOCA展」が、30周年を迎えた。若手芸術家の登竜門として定着し、絵画以外の作品も注目を集める。最高賞「VOCA賞」の歴代受賞作を一挙に集めた特別展が3月、神戸市の原田の森ギャラリー(兵庫県立美術館王子分館)で開かれ、最終日には、3人の受賞者によるトークが開かれた。

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 VOCA展は第一生命のメセナ事業として創設された。全国の美術館学芸員や研究者らによる推薦制で、対象は40歳以下の作家。作品は「250㌢×400㌢、厚み20㌢」の範囲内であればサイズや素材、技法などは問われない。

 記念展には、2作が同時受賞した第1回から昨年の第29回まで、30点の受賞作が並んだ。トークに参加したやなぎみわさんは「改めて見てみて、作品の大きさにびっくりした」と感嘆の声を上げ、「コロナもあってSNS(ネット交流サービス)で絵を見ることが多くなったが、生で見ないと絶対にわからない。今日初めて気付くことが多かったし、生で見ると神がかっている」と語った。やなぎさんは代表作の一つ「案内嬢シリーズ」で99年に受賞。初の写真作品での受賞だった。

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 90年代は抽象表現主義的な絵画が主流を占め、2000年を過ぎるあたりから具象へ移行するなど、作品は美術界のトレンドを反映してきた。10年代後半からは受賞作の多様化が加速。日の丸などをモチーフにしたキルト作品の碓井ゆいさん(18年)や、重ね合わせた連続写真の一部を彫ったNerhol(ネルホル=田中義久さんと飯田竜太さん、20年)のほか、「大作」という常識を覆した久門剛史さん(16年)などがVOCA賞に名を連ねた。

アーティストトークに参加した(左から)東島毅さん、やなぎみわさん、三宅砂織さん。左側の2枚組みの作品が三宅さんの受賞作=神戸市灘区で
アーティストトークに参加した(左から)東島毅さん、やなぎみわさん、三宅砂織さん。左側の2枚組みの作品が三宅さんの受賞作=神戸市灘区で

 トークには東島毅さん(96年VOCA賞受賞)、やなぎさん、三宅砂織さん(10年同)が参加した。「若い絵描きさんの一つの目標になっていると改めて感じた」というのは、ダイナミックなストロークによる2枚組みの絵画で受賞した東島さん。絵画的な写真作品で受賞した三宅さんは「わずかな変化も大きな変化も、その時々のアーカイブとして素晴らしい」と30年の蓄積を評価した。東京一極集中が進む中、作品の推薦を通して「全国の美術館の方が意思表示できる場所にもなっている」とも話した。

 やなぎさんも「作品が大きいこともあって、各作家の代表作や代表作に近いものが一塊になっていることは重要」と述べる一方、「公募ではないので、裾野がすごく広いわけではない。そこが長所でもあり短所でもある」と指摘。三宅さんも「癖のなさがこの先もいいのか、考えてみてもいいかもしれない」と語っていた。

2023年4月17日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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