財団を設立した深澤さん(中央)と理事の佐々木さん(左)、面出さん=東京都世田谷区で3月20日

 プロダクトデザイナー、深澤直人さん(66)がデザインと科学のつながりを探究する一般財団法人「THE DESIGN SCIENCE FOUNDATION」を設立し、本格的に活動を開始した。新たな才能を発掘する助成事業や講演会、書籍の出版などを通して「世界を美しい方へと導く力を芽生えさせる」としている。

財団が1冊目に刊行した書籍『DESIGN SCIENCE_01』
財団が1冊目に刊行した書籍『DESIGN SCIENCE_01』

 深澤さんは、デザインを手がけた携帯電話「インフォバー」や無印良品の壁掛け式CDプレーヤーがニューヨーク近代美術館に収蔵されるなど、国内外で活躍するプロダクトデザイナー。2013年から20年まで、毎日デザイン賞の選考委員も務めた。

 理事には生態心理学者の佐々木正人・東京大名誉教授、照明デザイナーの面出(めんで)薫さんが就いた。佐々木さんは、生き物の行為を考える場合に、生き物自体よりも、生き物の周りの環境に潜んでいる意味を重視して考える「アフォーダンス」研究の第一人者。

 深澤さんは3月中旬、設立報告会を開き、「わたしは、人間は無意識の状態でも秩序だった行動をすると信じてきた。その秩序がどういうものか、デザインを通して表したいとやってきた。アフォーダンスは自分が考えてきたデザインの概念にぴったりと合った」と話し、佐々木さんらと共に財団を設立した理由を明かした。

 さらに、「科学は確かで信頼できるものとされ、デザインは抽象的でどこか分からないものと捉えられることが一般的。でも佐々木さんは、デザインはサイエンスであると言う。デザインと科学のつながりを探究する力が持続可能な次の世界を築いていく」と見据えた。

 専門分野を横断して講演会や対談、ワークショップを企画するとしており、報告会には多彩な顔ぶれが参加した。そのなかの一人で作家、平野啓一郎さんは「哲学や精神分析学には人の心について考えるさまざまな概念があるが、それらは実際に考える必要がある当事者にとっては、時にあまりにごつごつしていてハンドリングが難しい。読者が深みを損なわないままアクセスできる文章とはどういうものか考えるとき、人とモノ、人と人の関わりを深く考察するデザインの仕事はヒントに満ちている」と語った。

 助成事業「PRIZE for LEADING CHARACTER」では、審査を通過した1人に100万円を支給。5月19日まで今期の応募を受け付けている。「『創造』『美』『調和』を生み出す知恵や道筋、世界を美しい方向へ導く作品や活動」が対象。詳細は公式サイト(https://thedesignsciencefoundation.org/prize/)。
 書籍の出版も手がけ、1冊目となった『DESIGN SCIENCE_01』(学芸みらい社)には、平野さんの他、人類学者や弁理士、精神科医といった幅広い分野の専門家が論考を寄せた。

2023年4月17日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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