日本で初めての、現代美術家のための労働組合「アーティスツ・ユニオン」が発足し、設立メンバーが2月24日、オンラインで記者会見した。労働組合プレカリアートユニオンの支部としての位置付けで、支部長でフランス在住の村上華子さんは「同じ思いを抱く仲間で組合を結成したことで、今後は胸を張って交渉することができる」と話す。報酬や労働災害など、労働環境の改善を目指す。
同日時点のメンバーは、村上さんのほか、湊茉莉▽川久保ジョイ▽加藤翼▽飯山由貴▽寺田衣里▽宮川知宙▽藤井光▽山本高之▽白川昌生の各氏。オブザーバーとして、プレカリアートユニオン多摩美術大学支部の小田原のどかさん、笠原恵実子さんも参加している。
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この日あった記者会見では、宣言文「アーティスツ・ユニオンとは」を、出席者が順番に読み上げた。
<アーティストの立場の弱さは、不当な搾取やハラスメントの温床となるとともに、多くのアーティストの貧困状況を生み出してきました。アーティストに適切な報酬が支払われること、契約を書面で交わしたうえで仕事を受けられること、アーティストとして労災を申請できること、ハラスメントのない環境でアーティストとしての仕事を行えることなど、労働者としての当然の権利が行使できることを、私たちは求めます>
「日本で作品を発表する機会があるたびに『報酬がない、あるいは不当に少ない』という状況に言葉を失うことが多々ありました」。村上さんは言う。湊さんの話も合わせると、フランスでは作品を発表する場合に主催者から制作費や材料費とは別に「アーティストフィー」が支払われるが、日本ではこれに当たる報酬が全くないか、極めて少額で、契約書を交わさないことも多いという。村上さんは「将来的にギャラリーを通じて作品販売につながるかもしれないという仮定を前提に、実質的にタダで仕事をせざるを得なかった」と話す。
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欧州の先行例も紹介された。村上さんと湊さんはフランス、川久保さんイギリス在住。フランスの視覚芸術家の団体「ラ・メゾン・デ・アーティスト」や、イギリスの組合「アーティスツ・ユニオン・イングランド」に加入すれば、アーティストのための社会保障を受けられたり、フリーランスでは審査が通らない損害賠償保険にも加入できたりする仕組みがあるという。
問題は報酬面だけではない。山本さんは個展の際に一方的に美術館側から記録集作成中止を言い渡され、作成委託料が支払われなかったという(後に賠償が決定)。また、國府理(こくふおさむ)さんがエンジンを用いた展示作品の点検中に一酸化炭素中毒死した事故や、飯山さんの映像作品が歴史認識を巡って東京都によって上映中止となった問題を挙げ、学芸員の倫理や労災、事前検閲といった問題にも取り組んでいくと明らかにした。
同ユニオンでは、プレカリアートユニオンの顧問弁護士を招いた契約に関するワークショップや、メンタルケアに関するワークショップを月1回のペースで開催し、加入説明会も併せて実施するという。詳細はユニオンのサイト(http://artistsunion.jp/)へ。
2023年3月8日 毎日新聞・東京夕刊 掲載