水戸市民会館を設計した伊東豊雄さん。2階ホワイエからやぐら広場を見渡す

 JR水戸駅から歩くこと約15分。市中心部を東西に貫く国道50号をはさんで京成百貨店のちょうど向かいに水戸市民会館(同市泉町1)が竣工(しゅんこう)した。北側に水戸芸術館が隣接する立地。設計を手がけた建築家、伊東豊雄さん(81)は「文化的なコミュニケーションが生まれる場になってほしい」と語る。

 11月13日に竣工式が開かれ、18日には現地でメディア向け内覧会が開かれた。地上4階、地下2階で、延べ床面積は約2万3232平方㍍。伊東さんによる国内の建築としては最大級になる。

 旧水戸藩の藩校、弘道館などを意識し、「木造で力強い建築を造りたかった」と伊東さんが語るように、市民会館で特に目をひくのは巨大な格子状のはりと柱が特徴的な「やぐら広場」だ。エントランスロビーを抜けると現れる吹き抜けの広場をやぐら状の木組みが包んでいる。自由に出入りできる屋内広場で、マルシェの開催や、スポーツのパブリックビューイングなどに使われる見通しだという。

4階の屋上庭園。中央に見えるのは、水戸芸術館のアートタワー

 その他、大中小の3ホールやギャラリースペースを備える。大ホールは茨城県最大の2000席を擁し、講演会やコンサート、演劇など多目的な用途に対応。壁面に施した音響反射板は偕楽園の梅をイメージしたという。4階には和室、屋上庭園を設け、庭園の先には水戸芸術館のアートタワーが望める。各階のホワイエやラウンジギャラリーには誰でも立ち寄ることができ、くつろいだり、勉強したりできる。

梅の花の形をした音響反射板が印象的な大ホール

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 設計は伊東豊雄建築設計事務所と地元の横須賀満夫建築設計事務所による共同企業体(JV)。施工は竹中工務店などが担った。伊東事務所の説明によると、建物全体で約1515立方㍍にのぼるカラマツの耐火集成材を使用しており、木造にこだわった。伊東さんは現在、シンガポールの大学キャンパスで同時進行する建築にも木を多用しているという。「二つの建築を通して木で何ができて何ができないかということがある程度理解できた。垂直で同じものを組み上げていくキュービックな建物には向いていると思う」と伊東さんは語る。

 外壁はガラスとアルミで覆っているため「中に入らないと木造であることが分かりづらいかもしれない」というが、日が暮れて、室内に明かりがともると、木の温かみや力強さが外にいても伝わってくる。

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 市役所(同市中央1)に隣接していた旧市民会館は2011年、東日本大震災で被災し、取り壊された。市と再開発組合が新たな会館の建設を計画し、16年のコンペで選ばれた伊東さんらが設計を行った。市中心部の活性化を課題としている同市にとって、この新市民会館はにぎわい創出のきっかけになることが期待されている。

 開館は、周辺道路や備品工事などを終えた来年7月の予定。それに先立つ6月には向かいの京成百貨店と市民会館が上空通路でつながるという。伊東さんは「ホワイエやラウンジギャラリーといった自由に使える場所に、学校帰りの子どもや学生たちが寄ってくれるような、そういう場所としてにぎわいを見せてくれると一番うれしい」と語った。

2022年12月7日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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