手前が田中敦子「電気服」(1956/86年)。右奥は元永定正「作品」(64年)=大阪市北区の大阪中之島美術館で、中川祐一撮影

 国際的な再評価が進む戦後の前衛芸術家集団「具体美術協会」。解散から50年という節目の年に、ゆかりの地、大阪・中之島(大阪市北区)で、大規模な回顧展が開かれている。会場は国立国際美術館と、今年開館した大阪中之島美術館。具体の活動拠点だった「グタイピナコテカ」跡地から目と鼻の先に隣接して建つ2館による、異例の共同開催だ。

 「すべて未知の世界へ―GUTAI分化と統合」。展覧会タイトルは、リーダー吉原治良(じろう)(1905~72年)の言葉に由来する。「分化」と「統合」は、具体が目指す芸術についての言葉だが、ちょうどそれは、会員がばらばらにオリジナリティーを追究しながら一つにまとまっていた、具体という集団そのものに当てはまるのではないか――。そんな視点から、「分化」編(中之島美)、「統合」編(国立国際)として構成されている。

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 具体は54年発足。「人のまねをするな」が吉原の絶対的ルールだった。「分化」編では個々の作家の実践を、四つのキーワードに沿って探る。
 最初の章「空間」では具体を特徴付ける大作を中心に、空間への支配力が強い作品を展示。有名な田中敦子の「電気服」(1956/86年)もこの章に。同じく田中の「ベル」(55/2000年)は、スイッチを押すと等間隔に配置された20個のベルが順に鳴り、展示室を一周する。光で、音で。空間へのアプローチの仕方は実に多様だ。

 具体にとって特に重要な「物質」、反対に吉原が徹底して排しようとした「コンセプト」、時には展示室を飛び出した発表の「場所」。作品の傾向ごとにキーワードで分類されることで、個々の表現の多彩さがより強く感じられる。中之島美の国井綾学芸員は、具体の各メンバーが個性を育てつつ共通の目的に向かったことで「単独では生み出しえない強大なエネルギーを生産することができた」と解説する。

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 一方の「統合」編は、「自由」という一つの理念を軸に展開する。そもそも「具体」は「われわれの精神が自由であるという証を具体的に提示したい」(機関誌『具体』創刊号)との思いから名付けられた。社会全体が、あらゆるものを失った敗戦から立ち上がろうとしていた頃。具体メンバーも既存の「絵画」から自由になろうと模索し、創作を重ねた。

 最終章では、「額縁の中で現実と隔絶された何かを表現する」という絵画の性格そのものを壊す挑戦を見ることができる。通称「剝落する絵画」(57年)で、経年劣化を画面に取り込もうとした村上三郎。木箱に時計を仕込んだ「作品」(56/81年)では、チクタクという音で現実とつながろうとした。吉原の「作品C」(71年)は、画面端の漢字の一部のようなものが、その外にある形を想像させ、見る側とのつながりを生んでいる。

手前が、木箱に時計を仕込んだ村上三郎の「作品」(56/81年)。奥左は吉原治良「作品C」(71年)、右がヨシダミノル「The Blue Tent」(66年)=同区の国立国際美術館で、山田夢留撮影

 再評価の高まりに伴いオークション価格も高騰するなど、今や伝説的存在になりつつある具体。大回顧展の意義を、国立国際の福元崇志主任研究員は、やはり「自由」に求める。「自由に伴う苦しさや厳しさを体現する作品は、特に若い人たちに生きたモデルを提供してくれている。今、具体を見る意義はその一点に求められると思う」。来年1月9日まで。月曜休館。中之島美(12月31日、1月1日休館、2日は開館。06・4301・7285)、国立国際(12月28日~1月3日休館。06・6447・4680)。

2022年11月7日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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