「芸術は人の感情に訴えかけることができる」と話すアイ・ウェイウェイ=東京都港区で、高橋咲子撮影

 美術や映画、建築などの分野で多彩な活動をみせる中国出身の美術家、アイ・ウェイウェイ(艾未未)さんが第33回世界文化賞(日本美術協会主催)の彫刻部門受賞者として来日し、東京都内で記者会見した。反権力的な表現活動で知られるアイさんは英語で話し、「芸術にはメッセージがあり、それを発出すべきだ」と一貫する姿勢を示した。

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 1957年、北京生まれ。米国で約10年間学び、2008年北京五輪ではメインスタジアム「鳥の巣」の設計にも携わった。国際芸術祭に参加し、世界の主要美術館で個展が開催されるなど国際的な知名度も高い。人権活動家としても知られ、当局に拘束されたこともある。現在は中国を出国、ポルトガルで暮らしているという。

 日本では、芸術が政治に関与することは忌避される傾向にあるが、芸術家はどうあるべきか――。そうした問いに、作家はロシアのウクライナ侵攻などを挙げる。「第二次世界大戦後、長く平和の時代が続いたため、どうしても芸術は芸術のためにあると考える傾向にある。しかし現在、多くの人が苦しみ、何億人もが故郷や家を追われている」。自身もさまざまな事情から、故郷を離れた1人だ。

 とつとつと語り始めたのが、共に詩人であった両親の体験だった。フランスで学んだ父艾青さん(96年没)は文化大革命などで辺境に追いやられ、自分も幼少期から過酷な土地で過ごした。「父は約20年、1行たりとも詩を書けなかった。つまり、私は極端な権威主義的な検閲や、知的階層への弾圧を経験してきたわけです」

 だからこそ、姿勢は明確だ。「芸術家として何のためにあるのか、いかに芸術は人と結びつくことができるのか問いかけないといけない。芸術には常にメッセージがあって、それを発出すべきだし、人の深いところにある哲学的な考えや倫理的な心情と結びついているのが芸術だと思う」

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 21年11月に開館し、国際的に注目を集める香港の現代美術館「M+」にも、アイさんの作品は収蔵されるが、「国の正当性に対し直接異議を投げかける」(アイさん)作品は展示されない事態となっており、「香港では国家安全法が施行されて以来、政治状況が全く様変わりした」と憂える。「香港でおしまいということではなく、中国は台湾に対しても同じようなことを押しつけようとしている。台湾は長きにわたって政治的に独立した存在だが、統一を図ろうとしている」と危機感を口にする。

 カジュアルないでたちながら、時に後ろに手を回し、時に腕をくんで質問に答えるさまは、堂々たる風格。繰り返し芸術と政治について問われると「芸術家は戦争を止めることはできないという意味では、無力かもしれない」と認める。それでもこう強調する。「人々の感情に訴えかけ、人生は意味のある美しいものだと伝えることができる。そういう意味でわれわれはパワフルだ」

 現在、母高瑛さんは90歳近いという。家族が過ごしたつらい経験を振り返り「母なくしては私も父も生き延びることはできなかった。母を誇りに思います」とほほ笑んだ。

2022年10月31日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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