ファッションブランド「KENZO」のアーティスティックディレクターで「HUMAN MADE」デザイナー、NIGOさん(1970年生まれ)が少年時代から集めるアメリカのビンテージウエアを初めて、展覧会として公開している。「師であり、友でもある」これらの古着はNIGOさんにとって「参考書」でもあるという。これからのファッション業界を担う若い世代にもの作りのヒントにしてほしいと、会場には母校、文化服装学院の関連施設、文化学園服飾博物館(東京都渋谷区)を選んだ。11月13日まで。
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展覧会タイトル「THE FUTURE IS IN THE PAST(未来は過去にある)」は、NIGOさんのもの作りにおける大きなテーマ。今年の第40回毎日ファッション大賞を受賞した際の取材では「昔のものをさぐってそれを再構築し、新しいものを作ってきた」と語っていた。
KENZO創業者、故・高田賢三さん(39~2020年)は母校の大先輩。21年にアーティスティックディレクターに就任すると、高田さんが生前、学生らと積極的に交流を重ね、後進育成に取り組んでいたことを知った。本展開催に至った経緯を「僕にも何かできることはないかと考えた。もっともっと若い人たちに第一線で活躍してほしい。優等生ではなかったけれど、今回展示するコレクションを通して僕のもの作りのやり方を学生たちに知ってもらうのもいいかなと」と振り返る。
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会場には1910年代から70年代まで、35年にわたって収集した約500点が並ぶ。デニム素材の衣類は主にリーバイス、リー、ラングラーの3大メーカーごとに展示。例えばパンツでは、26年にリーが初めて発売した股上にジッパーを採用したものや、第二次世界大戦中の物資規制でポケットの裏布にネルシャツ地を用いたリーバイスのものなど、メーカーや時代ごとの工夫やアップデートの痕跡がうかがえる。
特に希少だという100年前のデニム地のプルオーバーは袖が身ごろに垂直に縫い付けられ、ワークウエアらしい粗野な雰囲気を漂わせる。50年代にはホテルに入れるデニムタキシードなるものも登場。ロデオ大会でチャンピオンに贈られたジャケットや、ピエロが着用してメーカーの宣伝をしたオーバーサイズのパンツなど、当時のアメリカ文化やくらしの姿もいきいきと伝える。
学校を卒業する際に同級生らが寄せ書きならぬ「寄せ刺しゅう」したジャケットや、デニムをくるんでいた包装紙、「セールスマンサンプル」と呼ばれる手のひらサイズのデニムパンツなどビンテージ愛好家でなくても足を止めたくなる珍しいものも少なくない。
NIGOさんは先の取材で、「特に30年代、40年代の衣服は作り手がああじゃない、こうじゃないとやっているのがよく分かって面白い。こういうところからファッションのトレンドが生まれるのでしょう」と語っていた。古着それぞれが宿すわずかな違いをおもしろがり、作り手の試行錯誤や身につけていた人たちの暮らしぶりに想像を膨らませる。古きを知って新たなクリエーションに臨む、NIGOさんの創作の原点に触れられる機会となっている。
2022年10月24日 毎日新聞・東京夕刊 掲載