建築を学ぶ学生が国内の「聖地」とされる場所に滞在し、特定の用途を持たない小さな建築を作る「建築学生ワークショップ」(毎日新聞社など後援)が東京都渋谷区の明治神宮で開かれた。学生らは「〝今、建築の、原初の、聖地から〟
杜(もり)の未来のために建築ができること」をテーマに、昨年6月から現地調査を実施。新型コロナウイルス感染拡大によって何度か延期を余儀なくされながらも3月1日からは同地で合宿を行い作品を完成させた。
ワークショップはNPO法人アートアンドアーキテクトフェスタが2001年度からほぼ毎年実施し、今回で18回目。これまでに奈良県の平城宮跡や、東大寺、島根県の出雲大社などで開催し、関東地方では初。代表理事の建築家、平沼孝啓さんは「建築にとってとても重要なのは場の文脈を読み解くこと。実地でなければ学び得ず、こうした特別な場所での経験は学生にとってかけがえのない財産になる」と話す。
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20年に創建100年を迎えた明治神宮は約73ヘクタールに及ぶ広大な神域と森に囲まれている。約10万本を人の手で植栽した人工林でもあり、都心とは思えない豊かな緑が広がっている。
全国から公募した学生約50人が8班に分かれ、神職らに境内を案内してもらったり、同地の歴史を調べたりして構想を練った。各班の提案には随時、構造や施工のプロが助言。社殿周辺を中心に、それぞれが選んだ場所に6泊7日の合宿期間中の今月6日、小さな建築計8体を完成させた。
樹木が生い茂る小路に現れた「誘惑」は木につったネットに和紙を貼り重ね、乾いた後に上下反転させ立たせた作品。雨が降れば溶けて土に返る素材を使った。「つなぎめ」は、明治神宮を「人々の結節点」と捉え、細い木材を曲げてつなぎ、結び目に見立てた。「流れの中に在るもの」は、ピンク色とオレンジ色のアクリル板を熱で曲げ、緑の中で人工的なインパクトを放っていた。
同日、明治神宮内の神宮会館で行われた公開プレゼンテーションには建築家の伊東豊雄さん、竹原義二さん、美術評論家の建畠晢さん、南條史生さん、構造家の佐藤淳さんら第一線で活躍する21人が作品審査にあたった。その結果「環境そのものを材料にして作りあげた」「自立不可能と思ったものを立たせた」として「誘惑」が最優秀賞に、「つなぎめ」が優秀賞、「流れの中に在るもの」が特別賞に選ばれた。
講評会で伊東さんは「自分の身に引きつけ、自分の言葉で語らなければコンセプトとプロジェクトとの関係性は伝わらない」、南條さんは「自然回帰する素材を使うといったポリティカルコレクトネス(政治的公正さ)だけでは予想可能な範ちゅう。そこを超える表現を探ってほしい」などと学生らにアドバイスを送り、約300人の聴衆も聴き入った。
今年は広島県の厳島神社を舞台に実施する。参加学生の募集など詳細はホームページ(https://ws.aaf.ac)で。
2022年3月30日 毎日新聞・東京夕刊 掲載