「縄文式弥生形壺」の展示の前に立つ柳原睦夫さん

 中国陶磁・韓国陶磁の世界的なコレクションを誇る大阪市立東洋陶磁美術館が、大規模改修を経た2023年秋、日本の現代陶芸を紹介する常設展示を新たに始める。その予告編のごとく、長期休館前の最後の企画展として京都在住の柳原睦夫さん(87)の作品を紹介する「柳原睦夫 花喰(かしょく)ノ器」が開催中だ。作品群には長い陶磁史に思いをはせずにはいられない要素が満載で、同館の中で見ると興味は尽きない。

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 柳原さんは高知県出身で、京都市立美術大(現・京都市立芸術大)で富本憲吉に師事。その後母校で助手をしていたが、1960~70年代に数回、アメリカの大学などから招かれて約5年間、かの地で過ごした。同国で市販されていたラスター釉(ゆう)を使った派手な造形作品などで注目を集めた。

 本展は、95年の作品「キ・オリベ後屈瓶(こうくつへい)」など同館が受贈した4点を核に、初期から近作まで41点を展示。柳原作品に華道家の杉田一弥さんが花を生けた写真作品も並ぶ。

柳原睦夫「キ・オリベ後屈瓶」1995年、大阪市立東洋陶磁美術館蔵(大森敬吾氏<Museum李朝>寄贈)

 際立つのは、相反するテーマを常に抱え込んでいる点だ。現代陶芸は「うつわ」という実用的要素と、「造形的作品」に二分して語られがちだが、柳原作品は双方の要素がある。文様と造形が一体化した「縄文式弥生形」のシリーズはその象徴といえるだろう。

 こうした創作の姿勢には、師の存在や米国での経験が影響している。受け身の意味での「影響」ではなく、むしろ意見の相違や矛盾にぶつかったことが大きいという。

 「私の卒業制作も、富本先生には黙認されただけ」と語る柳原さんは、アメリカ時代をこう振り返る。「学生とうまくコミュニケーションをとっていたつもりが、原爆の話で断絶し、新たな『敗戦体験』をしました。そんな中でも、日本の伝統ややきものの歴史を話し続けなくてはいけない。突き詰めると、自分の美意識が4畳半(=茶の湯の文化)で育まれていたことを思い知らされたのです。だから京都に戻ってきた。私は全部をポケットに入れたかったのです」

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 京都に再び拠点を定めた後は、大阪芸術大で後進の指導にあたりつつ、走泥社といった京都の前衛陶芸グループ、伝統的な美術団体からも距離を置き、無所属で活動してきた。大阪市立東洋陶磁美術館の出川哲朗館長は「富本さんを師に持ちながら作風を受け継がず、アメリカ滞在経験を経て、ご自身でそれを作り上げている。どの時代の作品でも柳原さんだと分かる強度がある。現代陶芸を展示すると決めた時、まずお願いしたいと考えた」と話す。

 歴史への深いまなざしは、「縄文式弥生形」のほか古田織部へのオマージュを込めて「オリベ」を冠したシリーズなどにも表れている。初期作品は須恵器に想を得たことも知られている。ポップな造形の茶器は伝統にしばられない挑戦の姿勢も感じさせる。

 柳原さんは本展について、「(国宝の中国陶磁である)飛青磁花生(とびせいじはないけ)のある美術館で展覧会ができるなんて、こんな幸せなことはありません」と語る。そして「キ・オリベ後屈瓶」が収蔵されたことをことのほか喜ぶ。「形の自律や躍動感を意識した作品です。今後、この美術館で日本の現代陶芸が中国の作品と真正面からぶつかる中、日本のやきものの魅力が『わび・さび』だけでないことを示す一助になれば」と願った。

 22年2月6日まで。月曜や年末年始など休館あり。大阪市立東洋陶磁美術館(06・6223・0055)。

2021年12月20日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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