パレスチナ自治区ベツレヘムの壁に描かれた、花束を投げる男(奥)。高さは約5メートル、現地の雰囲気も再現している=東京都品川区で2021年11月4日、平林由梨撮影

 その一挙一動がニュースになる数少ないアーティスト、バンクシー。東京・天王洲の寺田倉庫G1ビルでその活動の一端を見せる「バンクシーって誰?」展が開かれている。平日でも入場待ちの盛況ぶりだ。

 バンクシーといえば2018年、少女と赤い風船を描いた作品が、オークションで1億5000万円で落札された直後に額に仕込まれたシュレッダーで裁断される「事件」が話題になった。東京都港区の防潮扉にバンクシーのものと思われるネズミの絵が見つかった時は小池百合子知事がツイッターで紹介し、新聞を含むメディアが大々的に報じた。

 1990年代にイギリスの港町、ブリストルでグラフィティ活動を始めたとされるバンクシーは、素性を隠し続けている。多くの人の口の端に上るのは、神出鬼没の正体がいまだ不明ということに加え、バンクシーが発する貧困や紛争、難民問題や行き過ぎた資本主義への明快なメッセージや鋭い社会風刺にゆさぶられるからだろう。

 世界各都市を巡回した「ジ・アート・オブ・バンクシー展」を編成しなおしたのが本展だ。テレビスタジオの舞台美術チームが、グラフィティが描かれた15の路上を原寸大で再現した。本展を企画した日本テレビイベント事業部の落合ギャラン健造プロデューサーは「バンクシーは巧妙に時と場所を選び描いてきた。その空間、空気感を体感してほしかった」と語る。リアリティーを高めるため、再現のために設置したゴミ箱や警報器は現地のものを輸入し、サビやコケの様子にもこだわった。コレクターから借り受けたシルクスクリーン作品を含む約75点からその足跡をたどる。

 ストリートカルチャーに詳しい立教大兼任講師でDJの荏開津(えがいつ)広さんは「スペクタクルで体感的な展示はストリートアートの特性や社会的メッセージの理解に役立つだろう」と語る。壁や電車に無断で描かれたグラフィティは犯罪行為でもある。「60年代後半に米国で誕生してから市民や批評家、ジャーナリストらの目を通し、一部はギャラリーで有料で展示されるまでになった。こうした場所でバンクシーの作品が鑑賞できる状況に至るバックグラウンドも含めて、考えながら楽しんでみては」と話す。展覧会は12月5日まで。

2021年11月15日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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