(左)現存する中で最も古い1959年の「日活名画座」のポスター(ⒸWada Makoto)
(中)1961年の「日活名画座」のポスター。上映作は「太陽がいっぱい」(ⒸWada Makoto)
(右)1968年の「日活名画座」のポスター。上映作は「昼顔」など(ⒸWada Makoto)

 「週刊文春」の表紙などで知られ、一昨年に死去したイラストレーター、和田誠さんが22歳から無償で約9年間、東京・新宿の「日活名画座」(閉館)のために名優らを描き、大半が散逸したと思われていた〝幻のポスター〟が、和田誠事務所(東京)に計185点現存していたことが分かった。著名人を描き続けた生涯の原点の作品として脚光を浴びそうだ。

 和田さんは生前、お気に入りの約10点を展覧会や出版物に繰り返し提供。他は「残っていない」と周囲に話していた。同事務所によると、実際は保管されており、約170点が「引き出しの中で眠っていた」という。

 ポスターは10月下旬刊行の「和田誠 日活名画座ポスター集」(888ブックス)に収録され、一部は東京オペラシティで開かれている「和田誠展」に出品されている。

 このポスターは、映画好きの和田さんが多摩美術大在学中の1959年以降、広告デザイン会社に勤めながら月に1~3点手掛けた。上映作品をモチーフに、「昼顔」のカトリーヌ・ドヌーブや「太陽がいっぱい」のアラン・ドロンら名優たちが描かれ、大胆な構図と色彩が印象的だ。

 小さな原画を基に印刷会社がシルクスクリーンで縦約70㌢、横約50㌢に仕上げ、新宿周辺の駅や街角に張り出されたという。無償でも引き受けたのは「好きな映画のポスターが描ければうれしいですから」と和田さんは著書につづっている。

 国立映画アーカイブの岡田秀則主任研究員は「数点しか現存しないと思っていたので、185点も残っていて驚いた」と話す。太い描線や豊かな表情が特徴で、著名人をユニークに描いた和田さんが自身の技を鍛えた仕事と評価。「映画宣伝が機能を求め画一化する今、描き手の独自の工夫で映画を表現する意義も学べる」としている。

2021年10月25日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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