国内外で活躍する世界的建築家、伊東豊雄さん(82)は、1970〜80年代にかけて手がけた最初期の作品の図面や模型のほとんどをカナダ建築センター(CCA)に寄贈することに決めた。芝浦工業大豊洲キャンパス(東京都江東区)で開かれている「伊東豊雄の挑戦1971—1986」展(29日まで)のなかで明らかにした。国内の施設は受け入れや公開をめぐる体制が十分でないと伊東さんが感じたためで、「いずれは、全作品の資料をCCAに送るつもりです」と話す。
国内外で活躍する世界的建築家、伊東豊雄さん(82)は、1970〜80年代にかけて手がけた最初期の作品の図面や模型のほとんどをカナダ建築センター(CCA)に寄贈することに決めた。芝浦工業大豊洲キャンパス(東京都江東区)で開かれている「伊東豊雄の挑戦1971—1986」展(29日まで)のなかで明らかにした。国内の施設は受け入れや公開をめぐる体制が十分でないと伊東さんが感じたためで、「いずれは、全作品の資料をCCAに送るつもりです」と話す。
今回、寄贈するのは、伊東さんが建築家、菊竹清訓(1928〜2011年)の事務所を退所し、独立した1971年から89年にかけて設計した全31プロジェクトをめぐる図面など約2600点。ベネチア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞や建築界のノーベル賞といわれるプリツカー建築賞といった国際的な受賞を重ねる以前の、「苦難の時代」(伊東さん)に取り組んだ自身や家族のための住宅に関係する資料が中心だ。
■ ■
寄贈先に選んだCCAは79年に開設されたカナダ・モントリオールを拠点とする世界有数の建築ミュージアム。伊東豊雄建築設計事務所によると2019年、CCAが主催するリサーチプロジェクトに伊東さんが参加した際、来日したスタッフから収蔵をオファーされたという。これまでは自費で専用の倉庫を借り、保管してきた。CCAは収蔵するだけでなく、全てデジタル化してインターネット上で公開するという。
日本国内にも建築に特化した施設として13年に開館した国立近現代建築資料館(東京都文京区)がある。国内外で高い評価を得ている建築、建築家に関する資料を収集しているが「スタッフの数も十分ではなく、デジタル化なども遅れているのではないか」と伊東さんは感じたという。
■ ■
芝浦工業大での展覧会では、デビュー作の「アルミの家」(71年)、かまぼこ形の空間を組み合わせた自邸「シルバーハット」(84年)、横浜駅前広場の換気塔「横浜風の塔」(86年)など、カナダへ送る資料の一部を展示している。
特に、「今に至るまで追い求めてきた流動的な空間の原点」と伊東さんが思い返す、姉のために設計した「中野本町の家」(76年)については、何枚もの図面を時系列で並べていた。空間のあり方を試行錯誤した当時の伊東さんの思考の変遷がたどれる興味深い内容となっている。
◇残すべき知見、消失の危機−−建築に関する資料の海外流出について、松隈洋・神奈川大教授(近代建築史)の話
多くの国に建築の歴史を伝える著名な建築ミュージアムがあるが、この国にはない。私が2020年まで運営委員を務めた国立近現代建築資料館は、いずれ建築ミュージアムを設立するというビジョンのもと開館した。そこには重要な資料の海外流出を防ぐ目的も含まれていた。しかし現状、アーカイブの活用や、新たな知見の発見、理解の更新は進んだのか。職員を数年単位で交代させるのではなく、大局的な観点から資料を評価選別できるアーキビストを育成すべきだ。建築の歴史を共有し、次世代へと伝える回路が構築できないまま、残すべきものが消えていく危機感をぬぐえない。
2023年10月26日 毎日新聞・東京夕刊 掲載