森美術館が東京・六本木ヒルズにオープンして、20周年を迎えた。多様な人が集う地の利をいかしつつ、海外にも目を向けて国内外の現代美術の動向を伝えてきた美術館。片岡真実館長=写真=は合同記者会見で、国際的に認知度が高まり、国内でも「幅広い観客に現代アートを浸透させることに貢献をした」と手応えを語った。

【Topics】開館20周年 東京・森美術館 「幅広い世代にアート浸透」

 森美術館は2003年10月18日に開館。「職・住・遊を融合した文化都心」をコンセプトに誕生した六本木ヒルズにある。森タワー最上階53階に位置し、都市型の美術館として話題を呼んだ。その開館時から勤務していたのが片岡館長。20年1月から館長になり、非欧州出身で初めて国際美術館会議(CIMAM)会長も務めた。

 「20年という比較的短い時間で、世界各地でかなり広く認知されるようになったということは評価されていいかと思います」。そう片岡館長は話す。初代館長に欧米で豊かな経験を持つデビッド・エリオットさんを迎え、海外巡回展を受け入れたことが初期の評価につながり、国立新美術館などと開催した「サンシャワー」展(17年)は東南アジア地域での存在感を高めた。19年に開催し、現在も海外巡回が続く塩田千春展など同館が発信する巡回展も大きかったという。

■  ■

 では、この先どのようなビジョンを持って臨むのか。現在のアートシーンに欠かせない要素として、ダイバーシティー(多様性)、気候変動への対応、脱植民地化への取り組みを挙げる。

 森美術館においては「グループ展では、キュレーターにジェンダーバランスを意識してもらうようにしている」と話し、キャリアのある女性作家を対象にした「アナザーエナジー展」(21~22年)は話題を呼んだ。一方で、コレクションや個展における女性の割合は極めて少ないと指摘し、「多様なジェンダーに対して意識を拡充していく必要がある」とする。環境問題に関しては、再生可能エネルギーに100%切り替え済みだといい、開催中の「私たちのエコロジー」展でも、設営面で展示壁を再利用したり、再生素材を用いたりする取り組みを進めているという。

■  ■

 森美術館といえば、SNS(ネット交流サービス)を活用した広報も注目を集めてきた。写真・動画撮影を全面解禁したり、インスタグラマー(インスタグラム利用者)を集めた撮影会を実施したりしてきた。新型コロナウイルスの感染拡大中もさまざまなアプリを活用して発信を続けてきた結果、特にフェイスブックではインドネシアから大きな反響が寄せられたという。先日まで開催されていた「ワールド・クラスルーム」展の来場者の内訳は国内68%、国外32%だったといい、記者が訪れた際は、海外からと思われる鑑賞者の方が多かったほどだ。さらに来場者数もコロナ前にほぼ戻っているという。

 開館以降、六本木に現代アートを扱うギャラリーが増え、サントリー美術館や国立新美術館もオープンした。ファッション誌でも現代アートが扱われるようになるなど、「状況は明らかに変わってきた」。

 17日にあった「私たちのエコロジー」展の内覧会。翌日に節目の日を控え、片岡館長は「感慨深い」と笑顔を見せた。

 「美術館を取り巻く環境が大きく変わり、果たすべき社会的な役割も20年前と比べてはるかに大きくなっている。単に作品を収集して展示をするだけではなく、現代美術館として今後も社会の変化に緩やかに応答していきたい」

2023年10月19日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

シェアする