【Topics】瀬戸内国際芸術祭の今後
兵庫県立美術館の林洋子館長と対談するベネッセホールディングスの福武総一郎名誉顧問(左)=神戸市中央区で9月12日、中川祐一撮影

 瀬戸内海に浮かぶ島々や周辺港を会場に、3年に1度開かれている瀬戸内国際芸術祭(瀬戸芸)は、毎回約100万人が訪れる国内最大規模の芸術祭で、中心となる直島(香川県)は現代アートの聖地として知られる。総合プロデューサーを務める福武総一郎・ベネッセホールディングス名誉顧問が9月、兵庫県立美術館の林洋子館長と対談し、「海の復権」を掲げて地域振興に貢献してきた芸術祭のこれまでの歩みや、大阪・関西万博と同時開催となる次回2025年の構想について語った。

 今春就任した林館長による対談シリーズ企画の、第1回ゲストとして登場した。福武さんはまず、約35年に及ぶ瀬戸内の島々での取り組みを紹介。直島に子ども向けのキャンプ場を計画した父の遺志を継ごうと見て回った際、開発の影響で荒廃した島の状況を知り、「富士山より先に日本で最初の国立公園に指定された美しい場所の惨状に非常に強く憤り、無念を感じた」と語った。背景には首都東京を中心とした「過度な都市化と過度な近代化」があると見て、東京在住ではない建築家と現代アートの拠点をつくろうと構想。安藤忠雄さんに声をかけ、ベネッセハウス(1992年)や地中美術館(04年)を造ったと振り返った。

 瀬戸芸は直島や豊島(てしま)を会場に、10年にスタートした。総合プロデューサーとしての自身の役割は「たった一つ、赤字を出さないこと」と話し、コロナ禍で来場者が約72万人にとどまった22年も、黒字を維持したと語った。こうした文化活動の継続には、安定的な財政基盤が必要不可欠だと強調。「富を創造するのは事業活動しかない」として、美術館事業などを行う公益財団法人福武財団にベネッセホールディングスの株の一部を保有させ、財政基盤を安定させていることを紹介した。

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 開催時期が万博と重なる次回25年の瀬戸芸では「本州側にある美術館にももっと参加してもらいたい」と述べ、兵庫県や岡山県の美術館と連携する構想を明らかにした。具体的には兵庫県立美術館や大原美術館など本州4館、高松市美術館など香川県内3館、さらに直島に25年春オープンする新美術館の計8館で、連動する企画展を開催予定という。兵庫県美では、福武さんがコレクションする洋画家・国吉康雄と、林館長が専門とする藤田嗣治の二人展を開催することも紹介された。

 参加館を増やして受け皿を拡大することで「オーバーツーリズム」の問題にも対応したいとし、神戸と島々や高松を結ぶクルーズツアーや、安藤さんの設計による兵庫県美と直島の各美術館を回るイベントなどを計画していると語った。

 「35年ほどの活動を通して本当に感じたのは、自然こそが人間にとって最高の教師だということ。コンクリートジャングルでは絶対にいい企画はできない」。対談の最後に福武さんは改めて瀬戸内でのアート活動を通じて得たものを強調し、「近代化以降、日本ではこれから200年、300年長く持つ文化が育っていない。経済が衰退したらすっからかんの国になる。もっともっと経済人は文化に関心を持つべきだ」と訴えた。

2023年10月4日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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