「デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン」の展示風景=大阪市北区で4月14日
「デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン」の展示風景=大阪市北区で4月14日

 透明のアクリルの中に造花のバラが浮遊する「ミス・ブランチ」は、インテリアデザイナー・倉俣史朗の代表作。官能的な美しさが見る者の心を捉えるこの椅子は「デザイン」か、それとも「アート」か――。日ごろ何気なく使い分けている「アート」と「デザイン」、そしてその境界について考える展覧会が、大阪中之島美術館(大阪市北区)で開かれている。

 近現代のアートとデザインを活動の両輪とする同館だが、昨年2月の開館以来、両分野は展覧会やセクションを分けて紹介されてきた。「アートにはアートの、デザインにはデザインの専門の学芸員がおり、がっちり組んで交じり合った展覧会というのは難しいものがあった」と植木啓子学芸課長。「アートとデザインとは一体何だろうというのは我々の原点であり、恐らく多くの美術館にとっても大きなテーマだろうと思う」と、本展では「がっちり組む」ことを主題とした。

 家具やポスターから彫刻、油彩画まで約110点の作品が時系列に並ぶ。三木富雄の彫刻「バラの耳」(1962年)とオノサト・トシノブの抽象画「無題」(同)に相対して展示されるのは、剣持勇によるラウンジチェア(58年)と豊口克平によるスポークチェア(63年)。草間彌生さんのものでは、展示前半に布製の突起物に覆われた立体作品「無題(金色の椅子のオブジェ)」(66年)が、後半にKDDIの依頼で制作した犬の形の携帯電話(2009年)が展示されている。「私の犬のリンリン」と名付けられた水玉模様の携帯で、KDDIは「アートとしての強度とプロダクトとしての強度」を同時に実現させようとしたという。「PixCell-PRISMOID」(10年)は同じくKDDIの携帯電話で、名和晃平さんの作。透明な球体でオブジェクトを覆う代表作「PixCell」シリーズからは、最初期の作品「PixCell-Sheep」(02年)も出展されている。

倉俣史朗「Miss Blanche(ミス・ブランチ)」デザイン1988年/製作1989年 大阪中之島美術館蔵 ⒸKuramata Design Office
倉俣史朗「Miss Blanche(ミス・ブランチ)」デザイン1988年/製作1989年 大阪中之島美術館蔵 ⒸKuramata Design Office

 アートとデザインの「度合い」を来館者に判定してもらおうと、本展ではタッチパネルで操作するゲージを作品ごとに設置した。「アート40%、デザイン60%」といったふうに来館者は自らが感じた「度合い」をゲージで入力し、会場の最後でその時点までの集計を見ることができる。会期終了後には、全結果を発表する予定という。

 「デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン」という展覧会タイトルについて、植木さんは「デザインとアートが同時代に刺激し合っているということが、一堂に集めて目で見てみるとわかる。そこに何らかの恋愛関係のようなものがあるのかなという一つの想像を込めた」と話す。6月18日まで。

2023年5月10日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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