東京・森美術館の展覧会に参加し、陶で作った大量の新聞が巨大なタンクからこぼれ落ちる新作のそばに立つ美術家、三島喜美代さん=東京都港区で2021年4月21日
東京・森美術館の展覧会に参加し、陶で作った大量の新聞が巨大なタンクからこぼれ落ちる新作のそばに立つ美術家、三島喜美代さん=東京都港区で2021年4月21日

 作品だけど「ゴミ」。美術家、三島喜美代さん(90)は自作をそう表現してきた。1970年代以降、陶を主な素材に、捨てられた新聞や空き缶などを模したオブジェを制作。その作品は近年、再評価が進み、フランスのポンピドーセンターなど海外の美術館でも収蔵されている。2021年には世界のベテラン女性アーティスト16人を集めた東京・森美術館の展覧会に、国内在住作家としてただ一人参加。同館の片岡真実館長との対談が4月、京都市内のホテルで開かれた。

 「三島さんはいつも、自分は現代アーティストだとおっしゃっている。長らく『陶芸の人』と思われていたことをどう感じていましたか?」

 片岡さんが尋ねると、三島さんは「嫌だと思っていました。私はたまたま陶を使っているだけで、考え方は現代美術」ときっぱり。自身にとって作品は「毎日の生活の記録」であり、おのずと「現代」が映し出される。「ただ面白いから作る。理屈も何もない」。対談は現在、三島さんの個展が開催されている京都市内のギャラリー「艸居(そうきょ)」(26日まで)の企画で行われた。

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 まずは片岡さんが、現代アートにおける世界的な潮流を説明。デジタル世界のメタバースやNFT(非代替性トークン)が話題になる一方、「その対極にある陶芸や染織など『工芸』といわれていたものが再評価されるようになっている」。また、欧米の白人男性のアイデンティティーを中心につくられてきた美術の歴史において、「欧米圏を含めた有色人種の女性、あるいは(性自認が男女のどちらでもない)ノンバイナリーの人たちの作品が大きく注目されている」と解説。こうした二つの動向の中に、三島さんの近年の再評価も位置づけられると分析した。

 三島さんが陶制作に目覚めたきっかけは、新聞だった。「くちゃくちゃっとした新聞がそこら辺にあって、これが割れたら面白いなと思った」。薄くのばした陶に、シルクスクリーンや手書きで新聞や空き缶のイメージを転写したり、ゴミを高温焼成した溶融スラグや繊維強化プラスチック(FRP)を使って、巨大な「ゴミの山」を作ったり。制作方法は独学だ。試行錯誤の中、「初めてやることばかりでいろいろ失敗しながらやってきた。その失敗が逆に面白かったんですね」。好奇心と「なんでもやってやろう」の精神が、誰のまねもしない、そして誰にもまねできない三島作品の独創性を支えている。

 三島さんは86年、ロックフェラー財団の奨学金を受けて米ニューヨークへ渡った。1年間の滞在中、段ボールの破片などゴミばかり集めていたといい、「ゴミが面白いのはなぜ?」との片岡さんの問いに、「その土地の記録だから面白い」。海洋プラスチックごみ汚染などの環境問題が地球規模で深刻化する今、「ゴミの時代やから私の作品にスポットがあたった」とユーモアたっぷりに語った。

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 作品は世界で20を超える館にコレクションされ、22年には毎日芸術賞、翌23年には「円空賞」を受賞。片岡さんに「今やっと世界がキミヨ・ミシマを見つけた感じだから、デビューしたてのようですよね」と話を振られると、「まだゴミを作りたい」。周囲の評価は「どっちでもいい」と語り、「私は自分でやりたいことだけやれればいい。自由に生きるのが面白いし、今も毎日失敗しています」と笑った。

2023年4月24日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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