ディエゴ・ベラスケス《卵を料理する老婆》 1618年 © Trustees of the National Galleries of Scotland

「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」22日から東京都美術館で

文:髙城靖之(たかしろ・やすゆき=東京都美術館 学芸員)

西洋美術


 「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」が4月22日から東京・上野の東京都美術館で始まる。本展は、スコットランドが誇る至宝の中から、ラファエロ、エル・グレコ、ベラスケスなど、ルネサンス期から19世紀後半までの西洋絵画史を彩る巨匠たちの作品を展示する。さらに、同館を特徴づけるゲインズバラ、レノルズなどによる、イングランド絵画とスコットランド絵画の珠玉の名品も多数出品される。本展の見どころを髙城靖之・東京都美術館学芸員が解説する。

名作とたどる美の歴史

 スコットランド国立美術館は、上質で幅広い、世界でも指折りの西洋絵画コレクションを有する美の殿堂です。本展は、そのコレクションの中から、15世紀から19世紀の主要な巨匠たちの作品に加え、ゲインズバラ、レノルズ、レイバーン、グラント、ターナー、ミレイといったイングランドやスコットランドの画家たちの名品を、時代順にご紹介するものとなります。
 
 15~16世紀はイタリアを中心に芸術文化が花開いたルネサンスの時代です。本展ではラファエロやティツィアーノ、エル・グレコらの素描や油彩画をご紹介します。注目はレオナルド・ダ・ヴィンチの師ヴェロッキオに帰属される「幼児キリストを礼拝する聖母(『ラスキンの聖母』)」です。この作品の最大の特徴は、背景の廃虚となった古代建築にあり、この時代における古典世界の再発見と復興を象徴するとともに、古い宗教に対する新しい宗教(キリスト教)の勝利を表しているのです。
 

アンドレア・デル・ヴェロッキオ(帰属)《幼児キリストを礼拝する聖母(「ラスキンの聖母」)》 1470年頃 
© Trustees of the National Galleries of Scotland

 17世紀のバロック期には、ヨーロッパ各地で革新的な画家たちが従来の世界観を覆そうとしました。本展ではレンブラントやルーベンス、ヴァン・ダイク、クロード・ロランといった巨匠たちの多様な作品が展示されます。中でもスペインのベラスケスが10代で描いた「卵を料理する老婆」は、ありふれた台所の情景を偉大な芸術の域にまで高めた傑作です。特に老婆が調理している卵の白身が固まりつつある描写は、この上なく素晴らしいものです。この作品が日本で公開されるのは、本展が初めてとなります。
 

ディエゴ・ベラスケス《卵を料理する老婆》 1618年 © Trustees of the National Galleries of Scotland

 18世紀、英国では三大画家と呼ばれるゲインズバラ、レノルズ、ラムジーが肖像画の分野で活躍します。レノルズは、肖像画に歴史画の様式を取り入れることで、肖像画の地位を高めました。「ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち」は、彼の代表作の一つで、貴族3姉妹が、洗練された手仕事に取り組んでいるところを描いています。3人の優美な女性たちという構図は、「三美神」という古典的な主題を想起させます。古典芸術の構図を参照しながらも、親密な魅力を備えており、後世の画家たちに大きな影響を与えた作品です。
 

ジョシュア・レノルズ《ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち》1780-81年 © Trustees of the National Galleries of Scotland

 19世紀のフランスでは、コロー、ルノワール、モネ、スーラ、ゴーガンなどの革命的な画家たちが登場し、大きな変革がもたらされました。一方英国では引き続き肖像画が好まれました。その代表的な作品が、スコットランド人として史上唯一、ロイヤル・アカデミーの会長に選出されたグラントの作品です。結婚直前の愛娘を描いたこの作品は、1867年のパリ万国博覧会で金メダルにも輝いたグラントの代表作であると同時に、彼が生涯手放さずに手元に置いていた私的な作品でもありました。
 

フランシス・グラント《アン・エミリー・ソフィア・グラント(“デイジー”・グラント)、ウィリアム・マーカム夫人(1836-1880)》 1857年 © Trustees of the National Galleries of Scotland

 本展にはここでご紹介した以外にも、スコットランド国立美術館の素晴らしいコレクションの中から、油彩画・水彩画・素描約90点が展示されます。西洋絵画の歴史をたどりながら、同館が誇る珠玉の名品の数々をご堪能ください。
  

◇ナビゲーターに天海祐希さん
 音声ガイドナビゲーターは、天海祐希さん。名画の見どころや、巨匠たちの知られざるエピソードをご案内します。貸出料金600円(税込み)。

◇図録予約受け付け中
 会場特設ショップのほか、通販サイト「まいにち書房」(https://www.mainichi.store/items/61150261)でも公式図録を予約販売する。A4変型判。1冊2500円(税込み)。送料別。

「スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち」展 公式図録表紙

INFORMATION

開催概要

 <会期>
2022年4月22日(金)~7月3日(日)。月曜日休室(ただし5月2日は開室)。開室時間は午前9時半~午後5時半、金曜日は午後8時まで(入室は閉室の30分前まで)。
 ※夜間開室の詳細は特設サイト(https://greats2022.jp/)で。
 <会場>
東京都美術館 企画展示室(JR・地下鉄上野駅下車)
 <観覧料>
日時指定予約制。詳細は特設サイトで。一般1900円、大学生・専門学校生1300円、65歳以上1400円。高校生以下無料(日時指定予約必要)。未就学児は日時指定予約不要。
 ※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付き添いの方(1人まで)は無料(日時指定予約不要)。
 ※高校生、大学生・専門学校生、65歳以上の方、各種お手帳をお持ちの方は、証明できるものをご提示ください。
 <お問合せ>
050-5541-8600(ハローダイヤル)
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、毎日新聞社、NHK、NHKプロモーション
協賛:信越化学工業、DNP大日本印刷
後援:ブリティッシュ・カウンシル
協力:日本航空、ルフトハンザカーゴ AG

2022年4月15日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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