【永遠の都ローマ展】
ローマ教会の擬人像
信仰育む、素朴さ誠実さ

文:小林明子(東京都美術館学芸員)

西洋美術

 宝石で彩られた王冠をかぶるこの女性像は、ヴァティカンの旧サン・ピエトロ大聖堂内を飾るモザイク装飾の一部だった。当初、人物はモザイク装飾の注文主である教皇インノケンティウス3世の図像と並び立つ全身像の姿で表され、教皇の権力の優位性が示された。ルネサンス時代に大聖堂の再建計画が本格化し、ミケランジェロの設計案に基づき建築工事が進められた16世紀後半に装飾は解体され、断片のみが残された。

ローマ派工房「ローマ教会の擬人像」13世紀初頭、モザイク、石とガラスのテッセラ、ジョヴァンニ・バッラッコ古代彫刻美術館蔵 ⒸRoma, Sovrintendenza Capitolina ai Beni Culturali / Archivio Fotografico del Museo Barracco
ローマ派工房「ローマ教会の擬人像」13世紀初頭、モザイク、石とガラスのテッセラ、ジョヴァンニ・バッラッコ古代彫刻美術館蔵 ⒸRoma,Sovrintendenza Capitolina ai Beni Culturali / Archivio Fotografico del Museo Barracco

 人物は輪郭線でかたどられ、顔の陰影や衣服の細部は明るい色のモザイクで簡潔に表されている。素朴で誠実な表現に、信仰を育むイメージとして発展した中世キリスト教美術の特徴が表れている。

INFORMATION

<会期>12月10日(日)まで
<会場>東京都美術館(台東区上野公園)
<問い合わせ>ハローダイヤル(050・5541・8600)
展覧会公式サイト(https://roma2023-24.jp/

2023年9月19日 毎日新聞・東京版 掲載

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