4月に筆者も審査員をつとめた第5回日本建築設計学会賞の審査が行われ、後藤武+後藤千恵の自邸が大賞に選ばれた。通常の仕事と違い、建築家自身が施主をつとめる住宅は、デザイン思想が明快に打ちだせる格好のプロジェクトである。実はこの賞において自邸が大賞となるのは3度目だった。逆に不特定多数の人が使うのが、公共施設である。審査のファイナルに残った、高橋一平が設計した山梨県の笛吹みんなの広場(2021年)は、現代における公共空間のあり方を考えさせる興味深いプロジェクトだった。
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これは1500平方㍍の大きな屋根施設、芝生広場、小さな東屋(あずまや)、コミュニティー棟、トイレ棟から構成される。NTTが所有していた敷地を市が取得し、石和温泉街に近い市街地を活性化させる公園のコンペで設計者が選ばれ、市民ワークショップを経て、ユニークな建築、すなわち複雑な屋根をもつ施設が誕生した。これは壁で囲われた体育館のような内部空間ではない。また屋根といっても、光を透過する膜屋根であり、とても明るい。ゆるやかに領域を覆い、さまざまな活動を誘発する。
白い屋根の高さは約8㍍であり、列柱に囲まれているだけなので、その下にいても閉塞(へいそく)感はなく、まわりの風景がよく見える。また浮かぶ大屋根は、街の新しい風景にもなっている。折板状の屋根は開いた扇を互い違いに並べたような形状をもち、軒の部分に家形のシルエットが並ぶ。その結果、遠くの山並み、あるいは周囲の住宅の三角屋根と呼応している。屋根は四角形ではなく、27辺をもつため、特定の正面をもたず、あちこちに対して開く。すなわち、歩きながら観察すると、刻々と見え方も変化する。鉄骨による家形のフレームはクラシックな趣もあるが、多方向性によって現代的な柔軟さを感じさせるだろう。
設計学会賞の審査において、高橋はしっかりとした建築をつくろうとしたと述べていた。つまり、すぐに壊してしまう仮設に見えるようなデザインにしないこと。悠然とした屋根施設は、その高さゆえに人に近づき過ぎることなく、空と大地のあいだに存在し、これから長い時間、街を見守っていくだろう。
2024年4月25日 毎日新聞・東京夕刊 掲載