制作の息吹を感じることができるアトリエ

 時が移ろい周辺の景色が変わっても、そのたたずまいは違和感なく溶け込んでいた。新宿区立中村彝(つね)アトリエ記念館(東京都)は、鳥のさえずりを楽しめる閑静な住宅街の中にある。

 彝(1887~1924年)は大正期を代表する洋画家で、「エロシェンコ氏の像」(重要文化財)などを残している。1916(大正5)年、この地にアトリエを建てた。建物は彝の没後に増改築されたが、記念館として整備するにあたり、建築時の姿に再現した。当時の部材も数多く使用されている。

西側からの眺め。角度のある切り妻屋根が特徴的だ

 建物は平屋で、急勾配の切り妻屋根がアクセントになっている。外壁は横長の板を重ねて張った下見板張りで、雨風の侵入を防ぐ効果がある。アトリエの天井は約5・1㍍もの高さ。北側に大きな開口部と天窓があり、そこから差し込むやわらかな光が一帯を包み込む。

 彝は結核を患い、南側の庭に面した居間で療養の日々を送った。病床から眺める庭の風景は彼の大切な世界でもあった。その光景を身近に感じ、若くして逝った彼に思いをはせる。画家の魂に触れた気がした。

居間から陽光に満たされた庭を望む

2024年5月5日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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