ビル街の一角で目を引く建物外観。壁には「AKIBO」など亡くなった劇団員らの愛称も刻まれている
ビル街の一角で目を引く建物外観。壁には「AKIBO」など亡くなった劇団員らの愛称も刻まれている

東京・JR新宿駅南口からビル街を歩くと、個性的な建物が現れた。プーク人形劇場(渋谷区)は、日本初の人形劇専門劇場として1971(昭和46)年に完成した。地下3階、地上5階建ての鉄筋コンクリート造り。地下1、2階に客席数106の小さなホールがある。「人形たち」の声が響き渡り、動きもよく見える。

「ゆうびん屋さんのお話」の稽古(けいこ)風景
「ゆうびん屋さんのお話」の稽古(けいこ)風景

 建物正面の外壁には、劇団の歴史が西暦とともに刻まれている。劇団は29年、「人形クラブ」として誕生。だが戦時色が強まり、国家による思想統制が次第に進む。40年、団員全員が検挙され、劇団は強制解散させられた。

昇降装置で地下3階の楽屋に下り、舞台下の空間を見上げる
昇降装置で地下3階の楽屋に下り、舞台下の空間を見上げる

 40~45年は銃や剣、ドクロなどとともに、「KENBO(けんぼう)」「AKIBO(あきぼう)」といった文字が目を引く。若くして戦死したり病死したりした劇団員の愛称という。表層は粗く削り取られ、この時代の苦悩を示しているかのようだ。また、45年の部分には平和を表現したオリーブの枝がある。

 子どもも大人も楽しめる良質な人形劇を生み出し続けてきた。建物も日々、歴史を積み重ねている。

2024年7月21日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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