座敷の障子のガラス部分に刻まれた花鳥模様が目を引く

 温泉目当ての観光客らでにぎわう大分県由布市湯布院町の中心部から少し移動すると、旧日野医院本館に着いた。擬洋風造りで、緩く弧を描く破風と白い壁にしつらえられた鏝(こて)絵、緑色の窓や手すりがアクセントになって、病院として使われた建物に優しさを感じさせる。

白壁に緑色の配色が美しい旧日野医院の本館

 中央の突出した玄関ポーチから入ると、患者の待合室に使われていた座敷がある。庭に面した障子のガラス部分に刻まれた花鳥模様が光り、外からの日差しを和らげる組子欄間の細かい造作が美しい。

 診察室には当時の診察台が置かれている。診察室隣は薬局だった部屋で、薬を小分けしていたであろう棚がある。「天皇」と記された文字が残る壁には、大正時代の大湯(だいとう)鉄道(現JR久大線の一部)の時刻表が張られたままで、この場に立っているとタイムスリップしたかのようだ。

本館2階のベランダ。奥は病棟

 1894(明治27)年に建てられた旧日野医院本館と、その後に完成した和風病棟は1999年に国の重要文化財になった。

2024年4月7日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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