広々とした窓から光が差し込むサンルーム

【レトロの美】
旧乾邸 神戸市東灘区
重厚かつ繊細

文:梅田麻衣子(毎日新聞記者)

建築

 住吉川が流れる緩やかな坂の南斜面に、赤い瓦の寄せ棟屋根が目を引く旧乾邸(神戸市東灘区)がある。乾汽船の創業者、乾新治の自宅として建築家の渡辺節が設計し、1936(昭和11)年に完成した。敷地面積は約3900平方㍍と広大だ。洋風を基調としているが、ところどころに和の趣を感じる。また、重厚さの中に繊細さを取り込んだデザインも特徴的だ。

バカラのシャンデリアが印象的な客間

 鉄筋コンクリート造り2階建て。約20の洋・和室のほか、豪華な暖炉などがある。神戸空襲や阪神大震災に見舞われたが、外装や内装、建具は当初材のまま残っている部分が多い。吹き抜けの玄関ホールや、シャンデリアのある客間などには、ぜいを尽くした意匠が施されている。調度品のほとんどはイタリアなど海外から取り寄せた。2008年には門や塀も含め、同市の有形文化財に指定され、数々の映画やドラマのロケ地としても使用されている。

 年2回の特別観覧では、毎回2000人を超える応募があり、来館者は全国各地から訪れる。

車寄せから玄関に続くアプローチ

2023年11月19日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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