かつての工房だった博物館の上方に保管される白生地を張る長板。7メートルのモミの木の一枚板で、節がないものが使用される

 フォークソングで有名な神田川の流れを前に、富田染工芸(東京都新宿区)は創業当時の姿を残す。東京染小紋、江戸更紗(さらさ)の老舗で、かつては浅草に工房を構えていたが良質の水を求め、1914(大正3)年、現在の地に移った。周辺には染色関連の業者が集まり、染色は新宿の地場産業として栄えた。

染料を生地に定着させる蒸しの工程

 染小紋は江戸時代、家によって使う柄が決まっていた武士の裃(かみしも)などに使われたが、次第に庶民の間にも広がり、粋で自由な様式が広まった。更紗はもともとインドで行われていた染色で、室町時代の中期に日本に伝わった。江戸更紗はその柄模様を取り入れ、日本の伝統的な型染めを応用し、複雑な柄を多色刷りに仕上げる技法を確立した。

東京染小紋は近くで見て初めてその微細な模様に気づく。小桜散らしの姿が浮かぶ

 工房には、更紗も含めた型紙は約12万点あり、伝統を引き継いできた。工房と隣接する「東京染ものがたり博物館」では染め付け体験ができる。職人が使う白生地を張る長板は40枚ほど保管されている。使い込まれた板からは技を磨いてきた職人たちの息吹が伝わってくる。

2023年11月5日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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