山口県上関町は、かつて朝鮮通信使や北前船が立ち寄り、海上交通の要衝だった。低層の建物が並ぶ港町で、木造4階建ての四階楼(しかいろう)が異彩を放つ。1879(明治12)年に、元第二奇兵隊参謀で、明治維新後に回船問屋などを営んだ小方謙九郎が迎賓や宿泊施設として建てた。
洋館建築に見られる建物の四隅を飾るコーナーストーン(隅石)が見られるが、4方向に屋根面がある寄せ棟造りなど日本の技法を取り入れた。このような洋館に似せた建物は擬洋風建築に分類される。小方は2階を汽船宿、3階を商談スペース、4階を客をもてなす広間として使ったと伝わる。3階の壁一面には唐獅子牡丹(ぼたん)がダイナミックに表現されている。鏝(こて)でしっくいを盛り上げてレリーフをつくる「鏝絵」と言われる技法で、左官職人の高度な技術がうかがえる。コーナーストーンも石に見えるが実はしっくいでつくられた。4階のステンドグラスは優しい色の光を畳に落とす。天井の中央では翼を広げた鳳凰(ほうおう)の鏝絵が今にも羽ばたきそうだ。
四階楼は2005年に国の重要文化財に指定された。
2023年10月22日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載