大尻沼の水面に映る格子状の堰堤

 群馬県片品村には日光白根山の噴火で、谷あいの川がせき止められてできた三つの沼がある。上毛電力(当時)は発電に利用するため、この中の丸沼と大尻沼の間に丸沼堰堤(えんてい)を築きダムを造った。当時の内務省土木試験所長だった物部(もののべ)長穂(ながほ)が設計し、1931(昭和6)年に完成した。

止水壁が傾斜しながら丸沼(右)に沈み込む

 止水壁を「控え壁」(バットレス)で支えるバットレスダムで、同様のダムは大正から昭和初期に全国で8基が建設された。構造は複雑だが、重力式コンクリートダムと比べ、当時高価だったセメントなどの資材が大幅に削減できた。

止水壁を支える控え壁(特別な許可を得て撮影しています)

 現存する6基の中で、堤高約32㍍、総貯水容量1360万立方㍍の丸沼ダムは最大規模を誇る。2003年、建設当時の姿をとどめながら稼働していることなどが評価され、国の重要文化財に指定された。

堰堤上部から下部につながる急な階段(特別な許可を得て撮影しています)

 現在は再生可能エネルギーを利用して発電する東京電力リニューアブルパワーが管理している。内部の見学は受け付けていないが、大尻沼の遊歩道から堰堤を間近に見ることができる。

2023年9月17日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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