南側の庭に面した入側。左上の窓上部と天井部の角に沿うようにあるのが縁桁

 和洋折衷の旧小坂家住宅(東京都世田谷区)は、昭和初期の趣を今に伝える。自然豊かな「瀬田四丁目旧小坂緑地」に建つ木造和風平屋建て(一部2階建て)で、北側は古民家を思わせる外観だ。多摩川に近いこのエリアには、かつて華族や政財界人らの別邸が多く建てられたが、残るのは旧小坂家住宅だけになった。

手前の茶室の出入り口「火灯口(かとうぐち)」の奥に書斎が見える

 実業家で貴族院議員などを務めた小坂順造の別邸として、1938(昭和13)年に完成した。南側にある居間と茶の間前の通路「入側(いりがわ)」の上部窓上には、一本ものの「縁桁(えんげた)」を設けた。長さ10・6㍍の北山杉が使われた。

書斎の柱やはりは太いものが好んで使用されている

 西側の書斎の床は、小さな木材を交互に並べる寄せ木の矢筈(やはず)張りを取り入れ、天井は赤松をぜいたくに使った。柱は木目を出した赤松の面皮柱で、室内は骨太な印象を受ける。

 南側にある寝室はシャンデリアが柔らかに室内を照らし、隣室のサンルームに移ると陽光に包まれていた。広い邸内を歩きながら、遠くなった昭和の時代に思いをはせた。

静けさの中にあるサンルーム

2023年6月25日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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