自然光を取り入れる設計の講堂内部

 東京工業大の大岡山キャンパス(東京都目黒区)にある創立70周年記念講堂は、斜面地形を利用して建てられた。完成から約65年が経過する講堂の設計は、東宮御所(現仙洞御所)などで知られる谷口吉郎が担当。卒業生や職員らの寄付金によって建築費を賄った。このため安価な素材をなるべく利用し、工費を節約する工夫がなされている。

特別に許可を得て撮影した南側の装飾壁の裏面

 芝が広がるスロープに面した南側は、かまぼこ形にアーチを描くボールト屋根に、水平の軒、縦長窓が連なる。その横と縦の線が交錯する外観を見ながら講堂内に入ると、柔らかな曲面の天井、斜面に沿って配置された客席、舞台背面のコンクリートブロックが目に入る。ブロックは弧を描く造作がなされ、落ち着いた雰囲気を醸し出している。

特別に許可を得て撮影した南面の縦長窓列。音響を考え配置されている

 講堂内の北側はラワン材のスノコ板がジグザグ状に配置され、吸音効果もある隙間(すきま)が意図的に作られている。南側の縦長窓も良質な反響をもたらす。木製の格子から差し込む光が拡散する様子を見ていると、時の流れをしばし忘れる。

南側建物外観。縦長窓部分が客席。左側が装飾壁

2023年5月7日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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