重厚な造りの中に開放感をもたらす吹き抜け空間

 玄関を入ると、いかめしい真ちゅう製の格子で仕切られたカウンターの奥に、装飾暖炉をしつらえた優雅な執務室が広がる。吹き抜けの高い天井には建設当時のシャンデリアが下がり、2階の半円アーチ型の窓からは柔らかい光が注ぐ。旧唐津銀行本店(佐賀県唐津市)は、同市出身の建築家、辰野金吾が監修。設計は弟子の田中実に委ね、1912(明治45)年に完成した。

1階から2階へ通じる階段

 真ちゅう製の格子は戦時中に供出されたが、2枚残っていた格子と、当時の写真を参考にして忠実に修復された。全体的なデザインは、レンガ色に白い御影(みかげ)石でアクセントをつけた「辰野式」と呼ばれる、洋風建築だ。外壁には伊部(いんべ)焼(岡山県備前市)のレンガ調タイルを使用。また、随所にアールヌーボーと呼ばれる芸術様式も取り入れ、独自性を出している。

レンガ調のタイルが美しい旧唐津銀行本店

 9個の暖炉が設置されるなど、唐津炭田の隆盛をしのばせる華麗な建物は、コンサートや展示会などで市民に開放され、2017年に佐賀県の重要文化財に指定された。

復元された銀行カウンター。真ちゅう製の格子も忠実に再現された復元された銀行カウンター。真ちゅう製の格子も忠実に再現された

2023年3月5日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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