日没後、ランプのほのかな明かりに浮かぶ建物。看板右側の1階部分が北棟、左側が南棟の喫茶室

 観光客らでにぎわう京都・四条河原町の交差点からほど近くに、西洋の街で見かけるような古い建物を見つけた。フランソア喫茶室(京都市下京区)は、元々画家志望だった社会主義者の立野正一(1907~95年)が、活動家の自活と社会主義啓発の場として、木造2階建ての町家を改修して34年に開業した。

南棟、光が差し込む窓側の席

 当初は南棟のみ、41年に北側の町家を買い取って移転。50年に再び南棟を改修し一棟にした。北棟は、ともに立野の芸術仲間だった京都大のイタリア人留学生、ベンチベニが設計、画家の高木四郎がステンドグラスをデザインした。ドーム型の天井や中央に膨らみのある柱、先のとがったアーチ状の窓など内装は豪華客船のホールをイメージした。テーブルや椅子、照明や絵画など、ほぼ当時の形で今も客を迎え入れている。

フランソア喫茶室で提供されているコーヒー。クラシック音楽が流れる店内で、客はそれぞれのひとときを楽しむ

 店名はフランスの画家ジャン・フランソワ・ミレーに由来する。戦時中は、敵性語排除の風潮から店名を「純喫茶・都茶房」に変え、自由な言論の場を守り抜いた。戦後も文化人や学生が集う場として親しまれてきた。

豪華客船の内装をイメージして設計された北棟の喫茶室。1941年当時からほぼ変わらぬ形で現在も客を迎えている

2022年10月2日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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