細長い小さな窓が連なるシンプルな構成が、建物正面に調和をもたらしている。埼玉県農林会舘(かいかん)(さいたま市浦和区)は、独創的な住宅建築の名手としても名をはせた、建築家の清家清が手掛け、1962(昭和37)年12月に完成した。その個性は、60年近くたった今も色あせることはない。
地上4階、地下1階の鉄筋コンクリート造りで、1階は頑強な柱を配し、建物を宙に浮かせるピロティ構造だ。柱の間隔は約13メートルと幅を広く取っており、開放感のある空間になっている。正面玄関前にある不思議な円筒は、地下1階に続くらせん階段入り口だ。その形状は、装飾性を廃し、合理性を重視したモダニズム建築を取り入れた会舘の中で、遊び心を感じさせる。
許可を得て階段を下りると、飛び石と玉砂利の空間が広がっていた。モダニズム建築と和の融合を見つけた気がした。同舘によると、玉砂利を敷いた部分に足を踏み入れると音がするので、夜間の防犯なども想定しているという。
2022年9月11日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載