東側の階段周りは天井、手すりなど曲線、直線が交わる形状の融合を見て取れる

 下町風情が残る東京・門前仲町に円形窓をアクセントにした建物が保存されている。旧東京市深川食堂(現深川東京モダン館)は、地上2階建てで、1932(昭和7)年に完成した。東京市(当時)が関東大震災の教訓を生かし、耐震耐火に優れた鉄筋コンクリート構造を採用した建物だ。

2階天井までの全面窓が開放的な空間を演出する

 震災後の不況下で、安くて栄養のある食事を提供する公共の食堂として開業した。その後、職業安定所などに使われてきたが、今は江東区の観光・文化拠点施設として親しまれている。

完成当初の面影を伝えるモザイクタイル。階段の蹴込み部分にもタイルが施されている

 南側の玄関から2階へと続く階段周りの空間は、天井まで窓が広がっている吹き抜けで、開放感がある。通路に張られた六角形などのモザイクタイルは完成当初からのものだ。使い込まれて色あせたタイルを見ていると、歳月を重ねることで醸し出される味わい深さを感じた。東側の階段は頑丈な幅広の手すりがあり、見上げると曲線や角張った面を持つ天井が目に入る。

 2008(平成20)年に国の登録有形文化財となった。

装飾を取り去ってシンプルな構造美を持つ建物。昭和初期の近代建築の姿が今も残る

2022年6月12日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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