建築当時のままの照明器具に明かりがともる玄関。表門までは石畳が続く

 近代日本を支えた主幹産業の移り変わりを見つめてきた。老舗の「料亭金鍋」(北九州市若松区)は、かつて石炭が「黒いダイヤ」と呼ばれていた1910(明治43)年に建てられた。近くの若松港は日本一の石炭集積港で、料亭がある繁華街は大いににぎわった。

文豪・火野葦平が書斎代わりに使った部屋の入り口の明かり取り窓

 コウモリをモチーフにした窓、山型や曲線を取り入れた明かり取り窓、廊下と客室を隔てる壁にある窓には、それぞれ異なる意匠が施され、料亭ならではの華やかさと遊び心を感じさせる。大広間には芸者が踊る舞台がある。

 石炭産業から製鉄へと産業が移り変わっていった時代は、大企業の接待の場として使われることが多かったが、今は地元の企業や市民らの社交場として愛され続けている。

窓曲線を描く手すりや天井などの艶やかな木目

 「麦と兵隊」や「花と竜」の作品で知られる小説家の火野葦平が書斎のように使っていた客間は「葦平の間」として当時の面影を残す。

 門の左右にガラスの欄間がはめ込まれた表門と、木造瓦ぶき3階建ての本館は2004年に国の有形文化財に登録された。

2022年5月1日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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