神戸市立王子動物園（神戸市灘区）の入り口から満開の桜のトンネルを抜けると、優美な洋館が目に入った。旧ハンター住宅（国重要文化財）は、神戸で現存する最大規模の異人館だ。

　1889（明治22）年ごろに、ドイツ人のA・グレッピーが英国人技師に依頼し、神戸に建設したとされる。その後、大阪鉄工所（現日立造船）を創設した英国人実業家のE・H・ハンターが買い取り、神戸・北野町に移築、改造した。「ハンター坂」は、かつて高台にこの洋館があったことに由来する。さらに所有者が転々として取り壊されそうになったが、兵庫県によって1963（昭和38）年に現在地に移築され、保存されている。

　木骨煉瓦れんが造り2階建て、外壁はモルタル櫛目くしめ引き。列柱式のベランダは当初は開放されていたが、日本の風土に合わず菱格子ひしごうしの美しい窓がはめ込まれた。階段踊り場のステンドグラスの窓、大理石の暖炉の前飾り（マントルピース）、シャンデリアなどは、明治期の裕福な外国人の生活をしのばせる。