独創的な形をした飾り窓と四季で表情を変える中庭

 下町風情が残る谷中に建つ朝倉彫塑館(東京都台東区)は、朝倉文夫(1883~1964年)のアトリエ兼住居だった。明治、昭和期にかけて活躍し、彫刻家として初めて文化勲章を受章した朝倉の世界観が随所に見られる。

書斎は壁一面に貴重な蔵書が並ぶ

 朝倉自身の設計で1935(昭和10)年に完成した。鉄筋コンクリート造りのアトリエ棟、木造の住居棟から成る。作品が鎮座するアトリエは天井高8.5メートル。北側には緩やかな曲面をなす窓があり、優しい光が差し込む。繊維などを含んだ壁は柔らかい雰囲気を醸し出し、空間全体に温かみをもたらしている。アトリエに隣接する「ピアノの間」として使われていた部屋には、見る人によってさまざまなものに見える飾り窓があり、美しい中庭と調和している。

やさしい光が入るアトリエ北側の窓

 書斎には美術学校で朝倉が教えを受けた美術評論家の岩村透の蔵書約2500冊が残されている。親しく交際したことから岩村の没後、引き取った。壁一面の本の背表紙は時が刻まれ、味わいを深めている。静寂に包まれた館内を歩くと心が休まるのを感じた。

2022年2月27日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

シェアする