山口県長門市で産出された大理石を使った石柱が目を引く2階ロビー

 建築家・村野藤吾が設計した渡辺翁(おう)記念会館(山口県宇部市)は、宇部興産の前身「沖ノ山炭鉱」の創業をはじめ、学校、病院の設立など同市の発展に寄与した渡辺祐策の功績を記念して建てられた。渡辺の関係した事業会社の寄付を得て工事が進められ、1937(昭和12)年に音楽ホールとして完成した。

音響学の専門家の助言を受けて設計された音楽ホール

 1階ロビーは海底炭鉱の坑道をイメージした乳白色の大理石の円柱が林立している。2階ロビーは茶褐色の石柱と、市松模様の床が美しい空間を作る。また、館内には「ワシ」をモチーフにした照明や飾りが随所にある。当時、日本と防共協定を結んでいたドイツを意識したデザインとされる。

 音楽ホールの内部は、緩やかな曲線の重なりが重厚感を演出している。音響学の専門家の助言を受けて設計され、残響音は、ホールの理想とされる2秒に近い1・9秒を実現した。

美しいループを描く屋上らせん階段

 村野が「自身の出世作」と語った同館は、2005年に国の重要文化財に指定された。

2021年10月24日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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