東京・靖国神社に近い坂を上ると、高い塀に囲まれた白亜の洋館が現れる。旧山口萬吉邸(千代田区)は1927(昭和2)年、新潟県長岡市で成功した商家の5代目、萬吉の自邸として建てられた。
地上3階、地下1階の鉄筋コンクリート造り。耐震構造の権威で東京タワーを設計した内藤多仲(たちゅう)が構造設計を担った。窓には防火の役割も果たすシャッターを備え、東京大空襲による大火に耐えた。現在の耐震基準も満たしているという。
当時有数の建築家、木子七郎が意匠を手がけ、今井兼次も一部の意匠に関わった。スパニッシュ様式の建物1階にはスクリーンポーチ、2階にテラスが設けられ、庭と室内を緩やかにつなぐ。居住空間と分けられた来客スペースの階段ホールは、モザイクタイルの床や大理石の手すり、噴水など豪華なしつらえになっている。
現在は会員制のビジネス拠点「九段ハウス」として運営されている。利用や見学の問い合わせは、https://kudan.house/
2021年10月3日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載