相模湾の浜辺にほど近い緑の中にある小田原文学館(神奈川県小田原市)は、明治時代に宮内大臣を務めた田中光顕の別邸だった。広大な敷地には純和風の家屋と洋館が建つ。洋館は3階建て(一部平屋建て)で、建築家、曽祢達蔵が手掛け、1937(昭和12)年に建てられた。現在は本館として使われている。
洋館の屋根は、ゆう薬をかけたエメラルド色の鮮やかなスパニッシュ瓦でふかれている。円筒を半分に切ったような丸瓦で、緩やかな曲線を生かしている。1、2階の南面には窓が半八角形に張り出したサンルームがあり、開放的な空間の前に濃い緑が広がっている。北面中央部の階段はゆったりとした勾配の造りで、黒大理石の手すりと、しっくいの壁がコントラストをなしている。木の踏み板の幅の広さなどからは、細部まで丁寧に仕上げた造りが伝わる。
一方、和風家屋は木造2階建てで、24(大正13)年に建てられた。現在は、別館として、童謡の半分以上を小田原で創作したといわれている北原白秋の資料を展示している。
2022年7月24日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載