【レトロの美】近鉄橿原神宮前駅舎
広大な空間がある橿原神宮前駅のコンコース

 急勾配の大屋根の下に緩やかな傾斜の屋根が重なる。奈良の古民家に見られる大和(やまと)棟(むね)を模した造りは神社仏閣のようでもある。屋根の下には神殿を思わせる丸柱が並ぶ。神武天皇を祭る橿原神宮の玄関口、近畿日本鉄道(近鉄)橿原神宮前駅舎(奈良県橿原市)は1939(昭和14)年、翌年に迫った「皇紀2600年」の関連事業として、同神宮の拡張・整備に合わせて建てられた。近鉄関連の物件を多く手掛けた村野藤吾の設計だ。

【レトロの美】近鉄橿原神宮前駅舎
傾斜が異なる屋根を重ねた駅舎

 駅舎内に入ると、広大な空間に圧倒される。天井中央の大きなシャンデリアと、南側に配された窓からの光が、コンコース内を照らし出している。切符売り場の上に掲げられた大和三山のレリーフがひときわ目を引く。巨大な屋根を支えるはりには「猪目(いのめ)」など、社寺に使われる意匠が施されている。

【レトロの美】近鉄橿原神宮前駅舎
コンコースにつながる玄関ドア

 昼間は静かな駅舎内も朝夕のラッシュ時は、通勤客の足音や学生らの笑い声があふれる。その騒々しさが、荘厳ではあっても人々の生活を支える現役の駅であることを思い出させた。

2023年10月15日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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